シンプルで飽きのこない仕掛けを
――手のひらサイズの絵本を広げると、目の前に動物たちが飛び出してくる。斉藤幸一さんがポップアップを担当する『とびだす!うごく!どうぶつ』(絵・わらべきみか/小学館)は、小さな子どもたちが楽しめる飛び出す絵本。「どうぶつ」のほか、「のりもの」「たべもの」「こうえん」などもある人気のシリーズだ。持ち運びにも便利で、子連れでのお出かけにも重宝する。とても小さいのに、開くとびっくりするほど飛び出してきて、複雑な構造の仕掛けも多い。
仕掛け(ポップアップ)の仕組みは、基本的に大きくても小さくても変わりません。大きい方が糊付けの幅がきちんととれるので組み立てやすいぐらいかな。小さいものは細かく設計しないといけないので。
仕掛けは、延々と見ていられるもの、シンプルで飽きのこないものを作るように心がけています。子どもも繰り返しが好きですよね。開いて完成するものはそれで終わってしまうけど、小さな動きでも開いたり閉じたりすることでずっと動いているものがいいですね。複雑な仕掛けは制限がなければいくらでも作れますが、全て手製本なので、コストの問題もあって作るのはなかなか難しいです。
――動物や生き物、食べ物や乗り物など、子どもが好むカラフルでかわいらしい絵も特徴だが、作品を作るときは絵が先にあるのだろうか、それとも仕掛けを先に考えるのだろうか。
本によって違います。このシリーズは、編集部からタイトルと登場するもの、ラフなどをもらって、先に仕掛けを考えています。最初に絵が決まっている方が、その絵をどう動かそうかと考えやすいですが、何も決まっていないものは自由に作れるので楽しいですね。動作だけを先に考えることもあります。『ゆうえんち』のコーヒーカップは、白地の画用紙で作った仕掛けを動かしながら、どんな絵が合うか考えました。
仕掛けができたら、試作品と図面、展開図を作って、編集部に渡します。そこに絵を担当する、わらべさんが絵をつけてくれます。一緒に相談して作ることはないのですが、わらべさんが描いたものは、組み立てても絵がずれることもなく完璧なので、信頼してお任せしています。
仕掛けを考えている時が一番楽しいですね。画用紙を切り刻んで、あーでもない、こーでもない、こんな動きはどうか、どう動かせば面白いか。机の上だけでなく、喫茶店みたいに少しザワザワした環境の方が考えやすかったり、朝、目が覚めて布団の中で寝ぼけてる状態が実は一番アイデアが浮かびます(笑)。
――斉藤さん自身が気に入っているのは、『れっしゃ』と『ゆうえんち』だという。
動きがいいですね。『ゆうえんち』のフリーフォールは上に昇っていく感じが出せました。シンプルだけど飛び出し方がいいでしょ。開くと本の2倍の高さになります。今度同じテーマで作るなら、こうしたいというものもあります。例えば『たべもの』のラーメンのページ。開くとラーメンが出てくる。面白いけれど、箸が上下するとか、そういう動きがあるのも好きですね。でも、人によって好きなページが違うんですよね。自分がいいと思ったものが、全然受けなかったり、あんまりと思ったのが意外に受けたり。ぜんぜんわからないんですよ(笑)。
魅力は、ペチャンコになること
――斉藤さんは、飛び出す絵本だけでなく、立体グリーティングカードやペーパークラフトなども手がけている。
最初はグラフィックデザイナーを目指して、福岡から上京してきました。レコードジャケットのデザインをするのが夢でした。ところが、入社したのがたまたまポップアップを得意とする「ポップス」という会社で、仕事のほとんどが平面ではなく立体(笑)。立体グリーティングカードとか、飛び出す絵本、幼児向け雑誌の付録になるペーパークラフトを作っていました。
子どもの頃から絵を描くことや工作は好きでしたが、まさか飛び出す絵本の仕事をするとは思わなかったですね。でも、社長がすごくいい人で、何を作っても、どんな失敗をしても褒めてくれたんです。最初に作ったのは雑誌「サンリオ あそびの国」(サンリオ)の付録で、ハローキティの貯金箱でした。名前が載ったこともうれしかったですね。博多に帰ったら本屋に並んでいて「自分が生まれたところでも自分が作ったものが売っているんだ!」と、感動しました。
――本シリーズ誕生のきっかけも雑誌の付録だった。
「ベビーブック」(小学館)の付録で、アンパンマンの飛び出す絵本を読者が組み立てて作るというものでした。サイズはこの本より小さいくらい。ちょうどその頃、編集部で子どもがベビーカーに乗ったまま読めたり、カバンに入れて持ち運びができるサイズの本の企画があり、お話をいただきました。こんなに長く続くとは思わなかったですね。日本以外でも、韓国、中国、フランスでも販売されていて、世界の子どもたちが楽しんでくれているのもうれしいですね。
ポップアップの魅力は、ペチャンコになること。ペーパークラフトは作った後に置き場所に困ることがあるけど、ポップアップは本棚や押入れにしまっておける。どれだけ複雑に作っても一瞬で平らになって、開くとまた一瞬で立体の世界が広がる。その驚きは大人になっても感動してもらえると思います。これから先は大きいものを作りたいですね。でも今、大きいものを作ってくださいという会社はなかなかないので、もっぱらプライベートで作って楽しんでいます(笑)。