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安宅和人「シン・ニホン」 「今度も立ち上がれる」のだ

 約440ページの分厚い経済の本なのに、発行部数は10万部を超えたという。読んでみて納得した。これは確かに多くの人々が求めてきた本だ。「今の日本はイケていない」と著者は手厳しく問題を列挙しつつも、将来に向けた具体的な対応策を説得的に論じ、読者に希望を抱かせてくれるからである。

 この15年余り「我が国は半ば一人負け、もしくはゲームが始まったことに気づいていないと言ってもよい状況」で、「このまま経済的な推進力を失ってしまえば、この国はそれほど遠くない未来に半ば中進国になる」。だが現状がひどいということは、逆に「多くの分野で伸びしろは巨大」と解釈もできる。

 これからはビッグデータと人工知能を掛け合わせた「データ×AI」による革命が世界のあらゆる産業を劇的に変えていく。その第一フェーズに日本は出遅れたが、我々のお家芸である四つの「勝ち筋」(キャッチアップ力など)を生かせば勝機はあるという。ただし、それを実現するには「人づくり」と「リソース配分」がカギとなる。

 評者はデジタル先進地域である北欧を昨秋回ったのだが、そこで聞いた話は本書が言うこの2点をまさに裏付けていた。「人づくり」については、中年世代の再教育が実際重視されていた。大学などに再び通って時代に即した新知識を得て転職していく中年世代は、著者が懸念する「ジャマおじ」にはならない。

 また、本書は「リソース配分」として、高齢者の医療費など社会保障費を抑えて国家予算の数%を科学技術振興や教育など「未来への投資」に割り振るべきだと主張する。日本では政治的に際どい議論だが、北欧にはそれを意識的に実践して成果を上げてきた事例が見られる。

 著者は映画「シン・ゴジラ」から書名のヒントを得ている。同映画の名セリフが引用されていた。「この国はスクラップ&ビルドでのし上がってきた。今度も立ち上がれる」。著者の思いが集約された言葉といえる。=朝日新聞2020年8月8日掲載

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 ニューズピックス・2640円=9刷10万6千部。2月刊行。コロナ禍での生活の変化に伴い読まれているという。「ジェンダーの問題に触れ、女性からも支持されている」と担当編集者。