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あの「北斗神拳」を体得した天才指圧師! ジャスミン・ギュ「ケンシロウによろしく」(第117回)

文:伊藤和弘

 残暑厳しい折なので、今回は“肩のこらない”ギャグマンガを紹介したい。実写映画化もされた『Back Street Girls』のジャスミン・ギュが「ヤングマガジン」(講談社)で連載している『ケンシロウによろしく』だ。
 ケンシロウとは、もちろんあのケンシロウ。幼いころヤクザの木村に母を奪われた沼倉孝一は復讐のため『北斗の拳』(武論尊・原哲夫)を熟読し、さらに正確なツボの位置を学んで「あん摩マッサージ指圧師」の免許を取って「沼倉マッサージ」を開業する。3ヵ月後に死ぬ「暗殺ツボ」で木村を人知れず殺すために……!

 累計1億部を売り上げた大ヒット作『北斗の拳』が「週刊少年ジャンプ」(集英社)で始まったのは1983年のこと。弱肉強食となった核戦争後の世界で一子相伝の暗殺拳「北斗神拳」の伝承者ケンシロウが活躍するというストーリーは誰もが知っている。その濃厚な作風はもともとパロディーにされやすく、「経絡秘孔(ツボ)を熟知したケンシロウが指圧をすればものすごくうまいはず」と思った人も少なくないだろう。あるあるの発想をそのまま形にしたのが本作だ。
 復讐のためにひたすらツボの研究を重ねた沼倉は、多くの有名人も顧客に持つ天才指圧師となった。2016年に東洋療法学校協会が行なったアンケートによれば、あん摩マッサージ指圧師の平均月収は20.0万円に過ぎないのに、助手に雇った里香(22)にポンと100万円もの月給を与えていることからも沼倉の売れっ子ぶりがうかがえる。

 木村に「母を奪われた」といっても母は自分の意志で(木村と浮気して)家を出ていったのだし、いくら『北斗の拳』を読んでも一子相伝の北斗神拳を体得できるわけがない! などツッコミどころ満載の設定がいい。『北斗の拳』の経絡秘孔と違って、本作に出てくる「神門(しんもん)」「肩井(けんせい)」「百会(ひゃくえ)」「太衝(たいしょう)」などはすべて実在するツボ。それぞれの位置や効能も説明されているので、意外と実用性も高い。
 今月発売された第1巻のラストで、犬金組の次期組長となった木村がついに来店。悲願達成かと思った直後、衝撃の事実が明らかになる! 10歳のころから「30年修業を積んだ」ということは沼倉も40歳。その母を奪った木村は50~60代のはずだから、そう考えるとなかなかリアルな展開ともいえる。ここから沼倉がどう出るのか気になるところだ。

 ほとんど出オチのようなアイデア一発のギャグマンガだが、「3人の若いヤクザが組長の命令で性転換と全身整形をして女性アイドルになる」というだけの『Back Street Girls』を12巻も続けたジャスミン・ギュだけに、案外息の長い作品になるのかもしれない。