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「りゅうとあまがみ」と「柳都物語」 新潟愛をマンガにすると (第154回)

 最近は地方都市を舞台にしたマンガも珍しくなくなってきた。そんな中、少し変わったところで「昔の新潟市」が登場する作品を取り上げてみたい。

 銀座で成り上がる女性を描いたネオン劇画『女帝』で知られる倉科遼(原作)と和気一作(画)のコンビは、2007年から1年ほど「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)で『柳都(りゅうと)物語』を連載している。「柳都」とは新潟市のこと。かつて縦横に張りめぐらされた堀に沿って何千本もの柳が植えられた景観からそう呼ばれ、繁華街の古町は全国的に有名な花街でもあった。

 戦争によって未亡人となった松本雅代は古町の料亭「柳亭」で仲居として働くうち、その美貌と才覚が評判を呼び、やがて二代目の女将に抜擢される。妻子がありながら彼女と恋に落ちる若き国会議員・山田泰造は、明らかに田中角栄がモデル。山田は帰郷する度に柳亭に立ち寄り、ふたりの間には子どもまで生まれる。獄中立候補や長岡鉄道(作中では寺泊鉄道)の再建など、角栄の実際のエピソードも頻出。雅代を主人公としつつ「田中角栄物語」とも呼べそうな内容になっていて、重厚な読み応えがある。

 「昭和20年代の古町」を舞台にした『柳都物語』に対して、昨年から「月刊コミックアライブ」(KADOKAWA)で連載している『りゅうとあまがみ』(角丸柴朗)の舞台は「明治時代の古町」だ。新潟港は幕末に開港した5港のひとつであり、明治時代の新潟県は意外にも全国で最も人口が多い(東京よりも多かった)豊かな県だったという。

 明治18(1885)年、父とともに新潟町(現・新潟市中央区)にやって来た英国少女のウィローは魚が大嫌い。そんな彼女が古町の妓楼「柳屋」の下っ端料理人・流作(りゅうさく)と出会い、魚と和食のおいしさを知っていくという物語だ。ちなみに「ウィロー」(willow)とは「柳」のこと。一見不思議なタイトルは「流作(りゅう)とウィロー(あまがみ=亜麻色の髪)」であり、「柳都の亜麻髪」という意味にもなっている。

 イワシの酢いり、がんもどき、けんさん焼き、車麩(くるまふ)の揚げ煮など、流作が作る料理は明治の新潟ならではのもの。それらを口にする度、青い目を大きく見開いて感激するウィローの表情が何とも可愛らしい。

『柳都物語』には角栄をはじめ吉田茂や池田勇人など実在した政治家をモデルにした人物が何人も出てくるが、『りゅうとあまがみ』には現「ホテルイタリア軒」の創業者ピエトロ・ミオラがその名のまま登場する。明治7(1874)年に創業した「イタリア軒」は新潟初の本格的西洋料理店であり、“新潟の鹿鳴館”と呼ばれた伝説の名店。日本で初めてミートソーススパゲッティ(ボロネーゼ)を出したレストランとしても知られる。

 時代考証やディテールの描写は実にしっかりしているが、史実よりもグルメを中心にしているのが現代的でとっつきやすい。来日したばかりのウィローが日本語ペラペラだったり、必要以上にリアリティーにこだわっていないので、ファンシーな絵柄ともあいまって、いくぶん「異世界もの」を思わせる雰囲気もある。考えてみれば、現代人にとって明治の新潟は一種の異世界に違いない。未知の世界を見るうえで、外国からやって来た少女の視点は共感しやすい。

 それにしても、作品全体から放たれる“新潟愛”には圧倒される。作者・角丸柴朗は岩手県出身で、新潟に住んでいるわけでもないらしいが、なぜこれほどまでに新潟にハマっているのか? 新潟出身者としては、一度じっくり聞いてみたいところだ。