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「BLの教科書」書評 性をめぐる二重基準や壁を映す

評者: 坂井豊貴 / 朝⽇新聞掲載:2020年09月12日
BLの教科書 著者:堀 あきこ 出版社:有斐閣 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784641174542
発売⽇: 2020/07/20
サイズ: 22cm/287p

BLの教科書 [編]堀あきこ、守如子

 1970年、竹宮恵子は別冊少女コミックの編集部に、予告と異なる原稿を遅れて提出した。それは少年同士の愛を描く作品で、裸身の描写が含まれていた。編集部は怒ったが、差し替えを用意する時間はなく、竹宮の原稿をそのまま掲載した。読者の反応は上々であった。それから半世紀。この作品を一つの源流として、今日BL(ボーイズラブ)と呼ばれるジャンルが確立した。本書はその歩みと、BLとは何かを考察する「教科書」である。
 ジャンルとしての成長には、多くの作家と厚いファン層が必要だ。雑誌「JUNE」で竹宮はマンガ教室を、中島梓は小説道場を開き、そこで多くの作家を育てた。BLに特有の「攻め・受け」の様式は、ファン層の形成に有利に働いた。誰と誰を攻めと受けにするかで熱いコミュニケーションができるし、その様式に当てはめると二次創作が比較的容易にできるからだ。
 BLの大きな特徴は関係性の重視だが、これはカバーだけでも見てとれる。成人男性向けコミックのカバーは、単独の女性キャラクターが読者を見つめるものが多い。だがBLコミックのカバーは、カップルが互いを見つめるものが多い。本書にはそれらカバーの比較があるが、視線の向き方は驚くほど異なっている。 同性愛を嫌悪するホモフォビアは、BLを排除しようとする。大型書店での販売中止や、図書館での除外がなされたこともある。それら事件は、男性と女性、および異性愛と同性愛への、二重基準の存在を浮かび上がらせた。これに限らずBLは、性をめぐる社会のありようを、ときに可視化する。例えばジャニーズの男性アイドルは、ファンサービスでカップルのように振る舞っても、基本的にそれは冗談やネタだという構えを崩さない。そこには社会のホモフォビア的な壁を見てとれよう。そしてなおそのBL的演出を楽しむファンの可視化が、その壁を揺さぶるわけである。
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ほり・あきこ 関西大非常勤講師(ジェンダー、セクシュアリティー)▽もり・なおこ 関西大教授(社会学)