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あきびんごさんの絵本「したのどうぶつえん」 上野じゃなくて下の動物園!?

文:日下淳子、写真:北原千恵美

駄洒落や言葉遊びに大笑い

――上野動物園の下に、実は秘密の動物園があった!……という、お話から始まる『したのどうぶつえん』。この動物園にいるのは、「りんごりら」「やかんがるー」とちょっとおかしな動物たち。駄洒落や言葉遊びが楽しく、2つの言葉が組み合わさって描かれたおもしろい絵に子どもたちが大笑いする。構想のきっかけは、作者のあきびんごさんが大学時代に通っていた「博物館動物園駅」からだった。

 いまはなくなってしまったけど、藝大に通っていた頃利用していた京成線に「博物館動物園駅」という駅があったんだよ。途中でトンネルに入っていく地下の駅で、トンネルの壁にゾウやライオンの絵が描いてあってね。階段をのぼっていくと、上野動物園のある公園に出られるの。学生時代から「ああ、だから『上』の動物園なんだな。そうしたら、下の動物園もあるはずだ」なんて思っていたことが、絵本の発想になってるね。

『したのどうぶつえん』(くもん出版)より

 この『したのどうぶつえん』を、新潟の幼稚園で学芸会の題材にしてくれたところがあって、いろんな登場人物を新聞紙とか紙粘土で作ってくれたことがあったの。「わらいおん」とか「ぶたこぶらくだ」とか、いろんな動物を描いたけど、子どもたちに一番人気だったのは何だと思う? 「べんきん(便器型のペンギン)」だって。みんなこれに座りたがったんだって。他の絵本でも、子どもに気に入った言葉を聞くと、親とか文部科学省が選ばないようなおもしろいのが人気になる。まさかこんなのが、というのを好きになってくれるのが、嬉しいね。

『したのどうぶつえん』(くもん出版)より

――あきびんごさんの絵本は、発想の斬新さと表現の幅広さが魅力。原画ではいろいろな素材を使用している。『したのどうぶつえん』では、動物や乗り物が切り絵で作られていて、色も形もインパクトがある。

 ぼくの絵は、背景から作っていく。時間をかけてバックを描いて、その上にゴリラの体を描いて切ってのせて、さらに顔をのせていく。舞台装置と同じで、こうすると奥行きが出るの。少し角度を変えたり、位置を動かすのにもこのほうが省エネでしょ?(笑) 原画展を見に来た子どもが、切り貼りをして描いているのを見て「これならぼくにもできる」って、新しい絵本作品を作って送ってきたんだよ。こういうのがいい。だから子どもにも原画を見てほしいと思う。

 ぼくは、材料の神様って言われるぐらい、絵にいろんな材料を使ってるんだよ。日本画の絵の具で、ラピスラズリという高級な画材があって、すごいきれいな青なの。こんなきれいな色があるんだってびっくりした。これを『30000このスイカ』という絵本で、夜を表現する色にふんだんに使ったんだよ。こういうきれいな色を、子どもに知ってほしい。特に日本画は、何度も色を重ねることで迫力が出るんだよ。手間がかかるからおもしろいの。ぼくは絵本の一枚一枚が、作品だと思っているから。

第二の人生で初めて作った絵本

――『したのどうぶつえん』は、あきびんごさんが、60歳になってはじめて作った絵本。それまで絵は描いていたものの、絵本を作ったことはなかった。還暦を転機に、精力的に絵本やドリルなどを作っている。

 ずっと公文教育研究会に勤務していて、教材や教具の開発をやっていたんだよ。でも絵を描きたいと思っていたから、52歳で自分のアトリエをたてて、絵画教室も開いてたの。そしたら59歳のときに、その教室に来てた80歳のおばあちゃんに「先生は来年還暦だから、第二の人生が始まりますね。新しい名前や仕事は決めましたか?」と聞かれてね。

 人生の先輩がそういうことを言うんだから、ぼくも何か始めなくちゃいけないなと思って、60歳を機に絵本を作りだした。ちょうど、一緒にお仕事をした画家の野見山暁治さんに「きみはどうして絵本をやらないの?」と言われたこともあって、最初に作った絵本が『したのどうぶつえん』。続編で『したのすいぞくかん』っていうのも作ったんだけど、これは傑作なんだよ。ほら、このページなんてみんな、回文なの。「いたちたい」「めがねがめ」「まんざいさんま」、すごいでしょ?

 ぼくは子どものときから、これになりたいってものはなかったの。絵描きになりたいとも思ってなかった。ただ、母親のひいたレールにだけは絶対にのらないぞ、と思っていただけ。公文教育研究会に入ったのも、広告代理店の仕事をしていたときに、取引先だった公文の創始者である公文公(くもん とおる)さんに、興味を持って声をかけてもらったのがきっかけ。ぼくみたいな生き方もひとつのスタイルなんだって、子どもたちに知ってほしいね。