「野の詩人 真壁仁」書評 「敗北」くり返し成熟した農民詩人の人生
評者: 戸邉秀明
/ 朝⽇新聞掲載:2020年09月19日
野の詩人真壁仁 その表現と生活と実践と
著者:楠原 彰
出版社:現代企画室
ジャンル:詩歌
ISBN: 9784773820034
発売⽇: 2020/06/12
サイズ: 21cm/412p
野の詩人 真壁仁 その表現と生活と実践と [著]楠原彰
20世紀の山形に生き、民衆詩の詞華集(アンソロジー)『詩の中にめざめる日本』を編んだ農民詩人、真壁仁(まかべじん)。彼の言葉に学びながら、反アパルトヘイト運動などアフリカに長く関わってきた教育学者が評伝を書き下ろした。
真壁の未公刊の日記まで読み解いた著者は、傾倒の深さゆえに、彼の「弱さ」にも踏み込む。なし崩しに進む戦時の転向、戦後の社会運動での仲間内の優先。家や組織にしばられ、そのたびに詩は批評性を失う。
戦後、地域の教育文化運動に力を注いだのは、詩人なりの戦争責任の取り方だった。半面、詩を書けなくなるが、戦時中に始めた民俗文化の探究は、「農のエロス」を詠(うた)い、農政による「稲の〈非運〉」に憤る最晩年の詩作に活かされた。
生活・表現・実践の統合という不可能を追い求め、「敗北」をくり返して、なお成熟に至る。「傷だらけの沃野(よくや)」と著者がよぶその生き方の全体が、形は変われど、しがらみの続く今に手渡された意味は大きい。