昨年度の高校3年生は最後のセンター試験世代。もし浪人すれば試験制度が変わってしまう。そんな状況下、ある県立進学校の3年・理系クラスのひと夏の奮闘を描く。
といっても受験が主題ではない。学校の名物行事であるクラス対抗コーラス大会で優勝する――それがみんなの当面の目標だ。個々に受験勉強も頑張りながら、クラス一丸となって選曲、パート決め、練習、本番と、題名どおりクレッシェンドに盛り上がっていく展開に心が躍る。
多少の問題は発生するが、それを解決する高校生たちの柔軟さと聡明(そうめい)さが美しい。誰もがお互いを認め合い尊重し合う。フェアで優しく、空気を読むのではなく気持ちを汲(く)む。高校生にしては人間ができすぎとも思うが、年相応にバカなところもあってホッとする。そのなかで誰かが誰かに片思い中という、すれ違いのままならなさも尊い。
驚くべきは、クラス39人をきちんと描き分け、全員が画面に登場する点。主要キャラだけでも十数人いるのに、それを自在に動かす作者の技には脱帽だ。後日談ではコロナ禍の世界も描かれ、彼ら彼女らがリアルタイムで生きているかのよう。今の時代にふさわしい青春群像劇である。=朝日新聞2020年9月19日掲載