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三月のパンタシア・みあさんインタビュー 自身の小説もとに楽曲制作「書くことで、このやるせなさを昇華したい」

文:福アニー

「終わりと始まりの物語を空想する」

――好書好日は本のサイトではじめましての方も多いと思うので、まずは「三月のパンタシア」の始まりを教えてください。

 三月のパンタシア(以下、三パシ)は私を中心としたプロジェクトなんですけど、最初はどういうビジュアルで表現するのか、どういう音楽性でやるのか、どういうクリエイターの方とやっていくのかというところから作っていきました。もともとバンド音楽が好きで、ボカロ音楽も初音ミクの曲をカラオケで歌うくらい好きだったので、それをベースに音楽表現をしていこうと。中学の時には女の子だけでコピバンを組んでいましたし。ビジュアルは、ネットカルチャーがイラストを使った表現が主流だったのでイラストにしようと。

 それでいいなと思ったイラストレーターの方やボカロPの方のSNSを見つけて、一緒に作品を作ってもらえませんかと連絡を取りました。どんな歌声かわかってもらうために、ボカロの曲を歌ったデモ音源も録りましたね。そうやって手探りではありながらも、色んな方の力を借りながら始まっていきました。

三月のパンタシア3rd Album 『ブルーポップは鳴りやまない』2020.09.30クロスフェード

 ユニット名の「三月」は終わりと始まりの季節をイメージして、「パンタシア」はラテン語で「空想」という意味なんです。なので「終わりと始まりの物語を空想する」というコンセプトをもとに、幻想的な世界観を表現したいと当初からぼんやり思っていました。そこからどんどん作品を発表していく中で、「思春期に言いたくても言えない切なさ」や「青春の終わりと新たに始まっていく物語」のような、もっと踏み込んだ濃いテーマになっていきましたね。

――今作「ブルーポップは鳴りやまない」も前作「ガールズブルー・ハッピーサッド」も、みあさんが書き下ろした小説をもとに楽曲を制作しています。文章を書いて、かつ歌詞も書くとなるとダブルで大変かと思うのですが、小説を楽曲に落とし込む際のこだわりや気を付けていることがあれば教えてください。

 小説を書いて歌詞を書くって遠回りで大変だと思われがちなんですけど、個人的には頭の中にいっぱい沸いている物語を小説にして整理することで、より言いたいことがちゃんとまとまるから助かっているんですよね。直接歌詞を書こうとすると、書きたいことが多すぎて、うまくフレーズのなかで言葉を整理できなくて。なので一回自分がどういう想いを書きたいのかを文章にして、頭のなかで整理するんです。

 「この描写はAメロで書きたいな、この辺はBメロで、ここは絶対サビだな」みたいなことが小説の中で見えてきたときに、その情緒をもっと鋭く切り取れるワードはないかなと考えて歌詞を作っていきます。言いたいことを小説からすくい取って、歌詞にするためによりキャッチーなフレーズに書き換えていく感じです。

 音楽では家族を含めた人間関係や恋愛のなかで、本当はこういう風に言いたいけど素直に伝えられないとか、言葉にすることで全然違う風に言ってしまうとか、なにかうまくできないもどかしさや素直になれない切なさを抱えている人たちの気持ちを歌いたいというのはずっと思っています。

――初めて小説を書いたときの感触は覚えていますか?

 当初の作品を読み返すと小説とも言えない詩と小説の間のような感じなんですけど、物語が紡がれていく感覚が初めてだったので、書いた感触としては難しさも感じつつ、楽しかったんですよね。自分が好きで読みたい作品を自給自足する感覚というか、自分が好きなシチュエーションを自分で作れるじゃんと思って。

 私自身、恋愛になると「こうしたい」や「本当はこうしたかった」ということが言えないタイプで、自分のなかで溜め込んでしまうところがあるんです。自分が生み出す物語にもそういう女の子が出てくるんですけど、小説の中ではそんな自分の感情を爆発させたいというか。小説を書くことで、どうにかこのやるせなさを昇華したかったところもあるかもしれないです。

 物語を創作することで自分の思いや考えがわかるのも、おもしろかったです。たとえば自分って結構重たいな、人に執着するところがあるんだなと発見したり。いままで自覚していなかったけど、改めて「自分対物語」という狭い空間の中で向き合ったときに、「自分ってこういうところあったんだ」とあぶり出される感じでした。

読書好きのきっかけは島本理生さん

――今回小説から楽曲にする時に、特に手応えを感じた作品はありますか?

 手応えというか、効果的にマッチしたのかなと思うのは、「醒めないで、青春」ですかね。「青い春の少女たち」という原案小説の中では、卒業を迎える女の子ふたりの物語を書いているんです。その切なさや「本当は離れたくないけどそれを言うのはダサいかな」といったような、女の子同士特有のもどかしさや甘酸っぱさは、小説を読んでもらうことでさらにすくい取ってもらえるんじゃないかなと思います。

三月のパンタシア 『醒めないで、青春』

――歌詞から小説を書いたことはないですか?

 一回だけあります。そっちのほうが難しかったです(笑)。前作「ガールズブルー・ハッピーサッド」収録の「パステルレイン」という曲で、インディーズ時代に書いてもらっていたんですよね。なので、これだけ歌詞から小説にしてみようということでチャレンジしました。

 サビの「止まない雨は無い/なんて君は言う/ならもうちょっと私/濡れていくわ」という一節から、あまのじゃくな女の子の歌だなと思って。本当は好きだけど、好きじゃないふりをしちゃう。気づいてほしいけど、反面気づかれたら多分この恋は終わるから、気づかれたくないような曖昧な気持ち。その境界線にあえていたいと思っている女の子だなあと歌詞から汲み取りました。

 こっちはすごい好きで、向こうも多分そのことに気づいている。でも私と恋人にはなれないけど友達でいたいとは思ってくれているから、すごい微妙な距離感を保ってくれているみたいな感覚。その気遣い、ばれていないと思っているかもしれないけど気づいているよって。でもその優しさが逆につらい、突き放してくれればいいのに、そういう気持ちはすごいわかるなと思って、それをベースに小説を書きました。

三月のパンタシア 『パステルレイン』

――小説を書くにあたって、影響を受けた作家さんはいますか?

 もともと島本理生さんがすごく好きで、かなり読んでいます。彼女の『ナラタージュ』という小説を中学生の頃に読んで、それが読書好きになったきっかけですね。自分の性癖は島本さんに作られているのかもしれないと思うくらい(笑)。キャッチーでドラマティックな展開で、絶対お互い好きなのに、運命としてそれは叶わない。そういう関係性を描いていることに当時衝撃を受けて、そこから学生時代はずっと島本さんの本を読んでいて。

 男女の情感における言葉にできない複雑さ、でも小説でしか書けない繊細さみたいなものがすごく素敵だなと思います。島本さんの物語はだいたい報われないし、あまり純粋なハッピーエンドがない。最後に光は描かれているけど、言葉にできない複雑な気持ちが残る。でも失恋小説とは違う。叶わない思いだけどそうなるしかなかったというような、そのエモーショナルさにすごく惹かれました。

 綿矢りささんの文章も大好きですね。本を読んでいて、声を出して笑えるって本当にすごいことだと思うんですよ。人を笑わせることが一番難しいと思っていて、お笑い芸人さんも本当に尊敬するんですけど、それが文章でできて、しかも書いている内容はめちゃくちゃ文学的で尊敬しています。人間の心の深いところまで踏み込んだことをサラッと書いてくれるので、すごくファンです。

憂鬱さをポップに昇華したい

――今作「ブルーポップは鳴りやまない」で特に意識したことはありましたか? ブルースの切なさとポップスの明るさのような、相反している感情が同居しているタイトルも印象的で。曲調もエレクトロ・ミュージックからバラードまでバラエティに富んでいますよね。

 「ブルーポップは鳴りやまない」というタイトルには、憂鬱さをポップに昇華できる音楽であるようにという思いを込めました。思春期の子たちが抱えているブルーな気持ち、理由があるわけじゃないけどなんか憂鬱だなとか、なんかやる気でないなとかいった気持ちを、音楽でポップにできるようなアルバムにしたいと思っていました。

青春期特有の危うさや揺れ動く心情を鮮明に綴った最新アルバム「ブルーポップは鳴りやまない」(発売中)

 なので最初に楽曲のリファレンスになる小説を書くときも、叶わない切なさも書きつつ、最後はなにか救われるような形を考えていて。ブルーの中に沈んでいくまま終わらせることもできたんですけど、なにか新しい光が見いだせるものを書きたいなと。それと小説の中でも楽曲の中でも、ポップさは意識していましたね。今回のアルバムは全体を通して明るくてキャッチーなサウンドやメロディーが多かったのかなと思います。

 そもそも「ポップ」ってすごい大きなものだと思っていて。三パシは青春時代のボーイミーツガールだったり男女の恋愛におけるもどかしさだったりをすくい取っているんですけど、やっぱりそれを「ポップミュージック」として届けたいという思いがあります。なので今回のアルバムではそれをより意識して、「ポップ」という大きなものを目指して作っていきましたね。

――今作収録の「煙」や前作収録の「青春なんていらないわ」は、ヨルシカのコンポーザーであるn-bunaさんの作曲です。彼は以前のインタビューで、物語と音楽の関係性について語ってくださいまして。みあさんのなかではその関係性をどういう風に捉えていますか?

三月のパンタシア 『煙』

 歌詞と小説は別物だと思っています。そのなかで、歌詞だと行間にある感情だったりシチュエーションだったりを、削がないといけない部分がどうしても出てくるんですよね。曲を聴いてリスナーがその部分をふくらませるというのもひとつの手段だと思うんですけど、そこに小説があることで、この子はこういう場面でこういうことを思っていたんだというような、音楽の中だけでは語りきれない部分を補完できる。どんどん物語が紡がれることでふくよかになっていくというか、豊かな奥行きを持たせてくれると思うんです。

鮮やかな感情を見つけていきたい

――10月に行われたオンラインライブもすごく楽しかったです。アニメーションでオンラインならではの演出もありつつ、みあさんが動き回って歌うことで強い身体性も感じられて。リアルとバーチャルが一緒くたになって元気をもらえる時間でした。未曽有の事態になりはしましたが、どういう心持ちでライブを仕上げていこうと思いましたか?

 この状況がなかなか収まらない中、周りのミュージシャンもどんどんライブを延期したり中止したり、どうなっていくのかみんなが不安に思っていて、そういう時だからこそ、三パシとして憂鬱な気分を拭い去れるような明るさが届けられたらいいなというのはアルバム制作時からも思っていました。

 それでオンラインライブができるぞとなった時に、前半はオンラインだからこその演出や、歌う場所を変えたりして視覚的に楽しんでもらいつつ、後半はいつものライブでやっているように一緒に手を上げて楽しんだり声をあげてもらったり手を振ったりという、フィジカルなものを共有できるようなシーンを絶対作りたいと初めから考えていました。なので後半はたたみかけるようにライブの定番曲をやりましたね。花道が作れるくらいもっと大きな会場でやるのが目標なので、さらに体力づくりはしていきたいと思っています。

三月のパンタシア 『ランデヴー』

 私は本当に緊張しいなので、お客さんがそこにいてくれることで安心して、歌を届けられる感覚が強いです。そのあたたかさにこれまで何度も助けられながらライブを重ねてきたので、お客さんの存在は自分にとってものすごく大きくて。そういう気持ちを「ランデヴー」という曲で書きました。オンラインライブもすごくいい経験になって楽しかったけど、次はやっぱりお客さんを入れてまたやりたいなと思いますね。

――ダイスケリチャードさんのイラストもインパクト大ですよね。アンニュイな女の子だけど色彩がポップでカラフルだから、相反するものがまとまっている感じがして、三パシとも世界観が通じるものがあるんだろうなと思ってみてました。

 ダイスケさんも全然繋がりがなくて、ツイッターでイラストを見て、お声がけさせていただきましたね。三パシのちょっと憂鬱な気分を抱えている女の子と、ダイスケさんが描く気怠げな女の子はめちゃめちゃ相性がいいんじゃないかと思って。それまでのイラストとは趣向の違うイラストレーターの方ではあったんですけど、新しいチャレンジとして、ダイスケさんとなにかできたらおもしろそうだなって。

 PVもイラストをメーンに動画を作ってもらっているんですけど、ダイスケさんの絵がもし動いたらどうなるんだろう、もう少し動きのある動画を作った時にどういう表現になるんだろうというのは考えたりもします。

――様々なクリエイターとメンバーを固定しない良さとは? また、これから挑戦してみたいことを教えてください。

 色んなクリエイターの方と曲ごとにテーマを決めて作品作りができるというのは、おもしろさのひとつだと思います。小説がもとになっていることが多いので、この雰囲気だったらこの方と一緒にやってみたいなとか。

 三パシはインディーズの頃から、青春の「青」がずっとテーマとしてあるんです。今回の「ブルーポップは鳴りやまない」もそうですし。色の話で言うと、そもそもビビッドな赤い感情とかちょっとダークな紫の感情とか、色彩のインパクトって結構強いなと思っていて。なのでいままでの「青」の爽やかさももちろん描きつつ、より踏み込んだ鮮やかな感情も見つけていきたいなと思います。