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園尾隆司さん「村上水軍 その真実の歴史と経営哲学」インタビュー 裁判の事実認定法を活用

園尾隆司さん=関口聡撮影

 法律家がなぜ水軍の歴史を?

 破産などを専門とする民事裁判官として40年務め、退官後は弁護士になり、経営破綻(はたん)の迫る海運会社の代理人を務めたことがきっかけだった。再生に必要なスポンサー探しが難航、瀬戸際に立たされたとき、ある海運業グループから出資の申し出があり、再建できた。

 彼らこそ村上水軍の末裔(まつえい)だった。出資の条件はただ一つ「日本の船主を使う存在でいてほしい」だった。

 「度量の広い彼らのルーツである村上水軍とはどういう存在なのか、探究したくなりました」

 瀬戸内海の伯方(はかた)島など村上水軍の拠点を訪れ、関係者に取材を重ねるとともに、博物館や図書館などの協力も得て史料にあたった。裁判官時代に培った事実認定の手法を生かし、5年間を費やして出版にこぎつけた。

 水軍には「海賊」のイメージを抱きがちだが、「真の姿はまったく違う」という。「彼らは武装した海運業者。1千年の歴史を持ち、その末裔は今も世界有数の海事産業群の一角を占めています」と強調する。

 本書では、村上水軍が航行する船舶から徴収していた「通関銭」は、領主の承諾を得た法的に承認されたものだった、と説く。これに「海賊」のイメージを植え付けたのは、太閤秀吉の発した海賊禁止令にあるとの仮説を示す。

 村上水軍は関ケ原の戦いで西軍について敗れ、太平洋戦争では当主が船もろとも徴用され戦没した。こうした浮沈にもかかわらず、海運業を維持、発展させ今日にいたった。コロナ禍で企業経営が難しい時代にあって、最後の章ではその経営哲学も解き明かした。

 本文中にはコラム5編を挿入。「落語家裁判官」の異名を持つ著者の創作小話も披露している。(文・古西洋、写真・関口聡)=朝日新聞2020年9月26日掲載