結婚とは何か、つくづく考えさせられた。
7年ぶりの新刊は、32歳の非正規社員が主人公だ。親の看病を理由に東京から茨城に戻った与野都(よのみやこ)は、勤務先のアウトレットモールの回転すし店で働く羽島貫一(はしまかんいち)に恋をする。
一般的に結婚相手に求めるものは彼には何もない。この人と結婚して良いものか、都が悩む気持ちはよくわかる。貫一にも何か結婚をためらう後ろ暗さがある。
〈この人がいなくなっても生きていける!〉
「幸せ原理主義」と揶揄(やゆ)された都がそう確信するに至って、物語はさらに転がっていく。
「『この人がいなくちゃ生きていけない』は昭和のトレンディードラマでは素敵なセリフだったかもしれない。けれど、今はそんなことを言っては生きていけないと思う」
不安を抱えて生きるのは都だけではない。更年期障害に苦しむ母、持ち家を維持するのに青息吐息の父。2人が出した結論は、ちょっと意外なものだ。
「まだ家を建ててなんぼという価値観が残っている。私の下の世代は少ないお金で充実した生活をする価値観を構築しなければいけない。でもそれは素晴らしいこと。下の世代から私たちは学ばなくちゃいけないんじゃないか」
この7年で担当編集者、父、愛猫との死別を経験し、書き下ろしを進めていたが途中で連載に。連載終了後に加筆したエピローグで都が、結婚は〈少しくらい不幸でいい〉と言いきるのが印象的だ。『結婚願望』『再婚生活』というエッセー集のある山本さんに聞いてみた。結婚という制度、どう思いますか?
「ほんとうにわからなくて。なぜつがいになるのか、3人でも良いんじゃないとか、いろいろ思います」(文・興野優平 写真は新潮社提供)=朝日新聞2020年10月24日掲載