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パリュス あや子「隣人X」書評 壁にぶつかっても誰かを支える

評者: 押切もえ / 朝⽇新聞掲載:2020年10月31日
隣人X 著者:パリュスあや子 出版社:講談社 ジャンル:小説

ISBN: 9784065197646
発売⽇: 2020/08/26
サイズ: 19cm/213p

隣人X [著]パリュス あや子

 無色透明の存在が、人間そっくりの姿になる場面から始まる物語。スキャン(読み取り)能力を持つその生物は、紛争が起きた惑星から地球へと逃れてきた「惑星難民X」とされ、日本でも彼らを受け入れる法案が上がる。SFの話の前提で小説の世界に入っていくと、本作で丁寧に描かれているのは、現代における差別などの社会問題や、一人一人――とくに女性の生きづらさだと気づかされた。
 主な登場人物は3人の女性。他に好きなことがあるが新卒就職が叶(かな)わず派遣社員として働く紗央。男性に恐怖心を持ち、目立たず慎(つつ)ましく生活する良子。言葉の壁や差別に苦しみながらアルバイトを掛け持ち、日本の大学進学を目指すベトナム人留学生のリエン。年齢も境遇も違う3人だが縁の力で結ばれていて、みな苦しみながらも本音を吐露できずに日々を生きる。
 能力、評価の壁、人種や言葉、性別の壁……。見えないけれど、絶対に超えられない「壁」が日常には山ほど存在することを思い知らされた。フランス在住の著者の海外生活での経験や思いが物語にも生かされているということに納得する。
 以前、日当をいただくアルバイトをしていた記憶が蘇った。社員の方と同じ内容の仕事をしてももちろん評価なんてされず、失敗でもしようものならものすごく怒られた。同じアルバイトに外国人の方もいたが、言葉の壁もあって、きっと私よりも不便な思いをされていただろう。
 3人はそれでも、誰かとの出会いやかかわりによって大きく励まされ、人生を変えていこうとする。そして自分も知らず知らずのうちに誰かを支えていくのだ。終盤、それぞれが大切な人を思いやる場面には読んでいて胸が熱くなった。その「誰か」が人であろうが、地球外生物であろうが関係ない。重要なのは、愛やお互いを思う心だろう。
 今、実際に起きている多くの問題を掘り下げて考えさせてくれる作品だった。
    ◇
ぱりゅす・あやこ 横浜市生まれ。2018年にフランス人と結婚し、渡仏。本作で小説現代長編新人賞を受賞。