「洋楽ロックの邦題か」と思わせる超訳サブタイトルが本書を象徴している。「無礼な人は、まわりを不幸にする」というブレない主張。礼節は大切と力説する。「職場の無礼さ」を研究する著者の20年間の集大成は、炎の導火線だ。無礼な人のいる職場は同僚が手を抜き、健康にも悪影響を与え、結果として誰もが被害を受けるという。
「理不尽な上司」「まわりを見下す部下」という現実。中には無礼だが結果を出す人もいる。この「デキるけどイヤな奴(やつ)」という問題。「勝手にしやがれ」ではすまない。新自由主義が骨の髄まで染み付いた社会を生きる私たちが直面する問題だ。そんな人への対処法も惜しげもなく公開されている。
コロナ禍が本書への共感を広げる。リモートワークが普及した結果、威圧的な態度や、仕事の「むちゃ振り」など「リモハラ」が顕在化している。業績ダウンの苦境や見えない展望から、無理な仕事が横行。従業員への配慮に欠ける企業もある。「男性」「新卒正社員」中心の昭和とは異なり人材はモザイク化し、いつでも、どこでも、誰とでも働く時代だ。「働き方改革」が叫ばれるが、仕事や人間関係で悩んでいないだろうか。礼節は生きる前提であり、最強の武器だと言えそうだ。
「無礼な人」への不快感、怨嗟(えんさ)の声からこの本への支持は広がったのだろう。ただ、読者は自分の職場でどう実行するか、悩むかもしれない。十数年前のビジネス書ブームのように、読むたびに高揚しても成功するわけではない。
礼節が、組織の成果のために利用されはしないか、という懸念もある。ブラック企業も必ずしも地獄の軍団ではなく、意外に礼儀正しく、やる気に満ちあふれているケースがあるから厄介なのだ。礼儀正しいことは、我慢の強要とは違う。業績はどの組織にとっても切実だが、物言うことを忘れてはならない。
気持ちよい職場、働き方とは何か。模索を続けよう。=朝日新聞2020年11月7日掲載
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夏目大訳、東洋経済新報社・1760円=9刷9万1千部。2019年7月刊。「無礼さによる損害を科学的に考察した点が評価されている」と担当編集者。今年9月に漫画版も出た。