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原武史『「線」の思考』書評 乗って歩いて歴史を掘り起こす

評者: 武田砂鉄 / 朝⽇新聞掲載:2020年11月21日
「線」の思考 鉄道と宗教と天皇と 著者:原武史 出版社:新潮社 ジャンル:産業

ISBN: 9784103328421
発売⽇: 2020/10/16
サイズ: 20cm/254p

「線」の思考 鉄道と宗教と天皇と [著]原武史

 ある地点と別の地点を結ぶ鉄道には、始まりの理由がある。その理由は、経年によって変化し、時に意味そのものが眠りこける。
 鉄路にひっつくように開発された街が連なる中で「線」の特性が消失し、象徴的ないくつかの「点」が一つの路線を背負うようになる。今、改めて「『点』と『点』を結ぶことで『線』が成立する」との視点で鉄路の意義を問う一冊が、なぜそこに「線」が引かれたのか、根源を掘り起こす。
 乗り、歩き、語り、記す。サブタイトルにもあるように、新宗教やカトリックの足跡、鉄道での移動を続けた近現代の皇室の姿を見つけ出す。「線」は、「時には数百年という時間を超え、幾条もの帯となって流れる水脈を探り当てる」のだ。
 「常磐」には「ときわ」と「じょうばん」という二つの読み方がある。常陸と磐城を組み合わせたのが「じょうばん」だが、「ときわ」は古代にまで遡(さかのぼ)ることができた。沿線には多くの鉱山、炭鉱があり、火力発電所や原子力発電所が並び、首都圏にエネルギーを供給する役割を果たしてきた。平成の終焉(しゅうえん)と常磐線の復旧を「常に変わらない岩」として重ね合わせていく。
 「房総三浦環状線」の章では、日蓮の歩みを鉄路に重ねた。旭川では、「線」の消えた街から、陸軍第七師団の痕跡を捜してみせる。車窓から思索を得て、その場での探索と、残された史料で編み上げていく。
 本書の取材は「現上皇が退位して平成が終わり、現天皇が即位して令和が始まる前後」に行われた。旅の始まりと終わりが「カトリックと皇室の関係」を探る構成となったことを「円環をなす」かのようとしたが、「点」を「線」にし、「面」や「円」を獲得する動的なプロセスにうなる。
 同行した編集者とのやりとりや、立ち食いそば・うどん店の様子を丁寧に盛り込むのも著者特有で楽しい。車窓から立ち上る歴史の断片に揺られ、いつの間にか連結されるのが心地よい。
    ◇
はら・たけし 1962年生まれ。放送大教授(日本政治思想史)。著書に『昭和天皇』『地形の思想史』など。