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人々のネットワークが生み出すもの 「地下鉄道」など辛島デイヴィッドさんが薦める新刊文庫3冊

辛島デイヴィッドが薦める文庫この新刊!

  1. 『地下鉄道』 コルソン・ホワイトヘッド著 谷崎由依訳 ハヤカワepi文庫 1232円
  2. 『千の扉』 柴崎友香著 中公文庫 858円
  3. 『緑の髪のパオリーノ』 ジャンニ・ロダーリ著 内田洋子訳 講談社文庫 880円

 (1)19世紀アメリカで南部の奴隷州から北部の自由州に奴隷が亡命するのを助けるための「地下鉄道」。小学校の歴史の授業でさらっと紹介された人的ネットワークが実際に地下を走る鉄道だったら。本書はそんな着想から生まれた。膨大な資料調査に支えられた重厚な歴史小説であると同時に、圧倒的想像力で生み出されたスリリングな逃走劇でもある。(文庫ではないが)実在の少年院がモデルの同著者の最新作『ニッケル・ボーイズ』と合わせて読みたい。

 (2)東京の中心に広がる巨大な団地。そこには多くの人生と物語が息づいている。義祖父が40年以上暮らした部屋に住むことになった千歳(ちとせ)を中心に、幅広い世代の住人の挿話や記憶が語られる。視点は現在から過去へ、人から人へと自由自在に展開する。すべてはつながっていて、一瞬一瞬の積み重ねが時代を作る。そう改めて実感させられる。千歳が住む団地の部屋のように居心地が良く、いつまでもとどまりたい空間がここにある。

 (3)最近どうも肩や腰だけでなく頭も凝り固まってきたような。筆者同様そう感じられている方には国際アンデルセン賞受賞作家の本作をぜひお薦めしたい。クモは家主に丁寧な別れの手紙を書き、工場の機械たちはもう武器を作りたくないと反乱を起こす。コリコリの頭もそんな軽快な掌(てのひら)がやさしくほぐしてくれる。ショート・ショートでよく見られる派手などんでん返しはないが、常識は静かに覆される。=朝日新聞2020年12月5日掲載