日本には、県外のファンを惹(ひ)きつける魅力あふれるテーマパークが点在している。その一つが、和歌山県の白浜町にあるアドベンチャーワールド。動物園・水族館・遊園地を併せ持つ複合型エンターテインメント施設で、開園以来42年の累計入場者数は3400万人を超え、口コミサイトで1位を獲得している。本書では、3代目社長の山本雅史氏が経営改革について語る。
1977年生まれの著者が社長に就任したのは5年前。カリスマ性のあった祖父や分析に長じた父の背中が遠く見え、プレッシャーに悩んだ時期もあったというが、ある出会いを起点に独自の「理念経営」に着手する。
その根幹とも言える思想が、本書に何度も登場する「だれもがキラボシ」。看板スターだったシャチが相次ぎ死を迎えた悲劇を機に、特定の動物にスポットを当てる路線を変更。すべての動物が輝く存在になれる戦略へと舵(かじ)を切り、特徴ある演出を重ねてきたことが、現在の人気につながる。そして、それは「人」も同じ。飼育係のみならず、販売部フード課、総務課、動物病院課など、同社で働く多様なプレーヤーの体験談が賑(にぎ)わう本書の構成そのものが、著者の経営観の証明になっている。=朝日新聞2020年12月5日掲載