1. HOME
  2. コラム
  3. BLことはじめ
  4. BL担当書店員のオールタイム・ベスト「年末年始に読みたい名作BL」

BL担当書店員のオールタイム・ベスト「年末年始に読みたい名作BL」

個性強めの若者2人が全力で恋する姿に泣き笑い(井上將利)

 この連載を始めてなんと3回目の年末を迎えます。時の流れってやつは早いし怖い!

 さて今回は年末年始に読みたい名作!ということで、僕が大好きな2人が登場する腰乃さんの「鮫島くんと笹原くん」(東京漫画社)をご紹介。

 本作はコンビニのバイト仲間である鮫島君、笹原君という2人の大学生が登場するのですが、設定が2010年、彼らの年齢が20歳ということで、僕とほぼ同年代!(当時、同じく大学生でした笑)そんなこともあり「たしかに大学生の頃はガラケーだったな~」とか個人的に親近感も感じてしまう僕の中の名作です!

 そしてまさに年末年始の大晦日から物語が始まる本作。一緒に年越しをしようと笹原君が鮫島君の家を訪ねる場面なのですが、まずここで衝撃の事実が……!
さかのぼること2時間、バイト中のコンビニのバックヤードにて鮫島君が笹原君に愛の告白をしていたのです。え、事後??と驚くのもつかの間、鮫島君が勇気を出して「好きなんだけど……」と言ったのに対して笹原君「え?うっそ キモ」というまさかの返し‼️
 つまり、告白して振られた鮫島君の家に、告白されて軽快に振った笹原君が何食わぬ顔で年越ししに来たわけですね。それは鮫島君も「なに普通に来てんだよ!」ってキレますよね(笑)。

 物語としては友人だった2人が鮫島君の告白を契機に不思議な関係性を発展させていくのですが、とにかく2人の個性が強いこと、強いこと。

©腰乃/東京漫画社

 鮫島君は告白後も友人として平然と振る舞う笹原君に混乱しつつ、「お前のこと好きなんだぞ!」「もっとキスとか色々したいんだぞ!」「そんなやつ目の前にして危機感無いのか!?」と感情の洪水をぶちまけて、好きな人を前にした時の衝動・欲望と、笹原君を大事に想う気持ちが頭の中で常に大乱闘状態。でも同時に言葉の端々に笹原君への愛が詰まっているのが凄く伝わってくるのが最高に愛らしいんです。「友達好きになるなんて、簡単なことじゃねんだよ…ッ」という彼の言葉は、まさに葛藤の中で絞り出した飾りっ気のない気持ちだと感じられます。
 そして笹原君は一見、スーパー鈍感野郎ですが、実はちゃんと悩んでいるのでした。急な告白に戸惑いつつ、友達のままじゃダメなのかと考えたり、鮫島君の「好き」に応えられるのかを懸命に確かめようとしたり。気持ちの整理ができなくてイライラを募らせるほど真剣に鮫島君のことを想っている彼もまた愛が溢れるキャラクターです。

 ただ彼らに共通するのが死ぬほど不器用という点。感情表現も行動もストレートなんだけど案の定、思いっきりすれ違ってしまうとことも。
 そんな20歳の若者2人が全力で恥ずかしがって、全力で想いをぶつけて、全力で喧嘩する。鮫島君と笹原君の怒涛の会話劇に思わず笑い涙する、喜怒哀楽が詰まった楽しい2人が繰り広げる楽しい作品を是非年越しのお供にいかがでしょうか。

年の差カップルの初々しさにほんわか。壁になりたい!(キヅイタラ・フダンシー)

 お気に入りの作品はすべて僕にとって名作ですが(笑)、今回は個人の癖(ヘキ)の偏りなく広くお薦めできて、どんな気分の時でも読み心地と読後感が良いと思う作品をご紹介します♪

 三田織さん「山田と少年」(プランタン出版)

 雪の降り始めたクリスマスイブ、仕事の帰り道に、やけ酒をして植え込みで寝かけている少年を拾った山田。少年の名前は千尋といい、山田の家の近所住まいで、進学校に通う学生でした。なぜ寒空の下ひとり倒れていたのか、ぽつりぽつりと千尋が話した事情、それは親友に彼女ができたことで自覚した、男への恋心。意外な事実に驚きを隠せない山田でしたが、「またいつでも来いよ」と彼なりの励ましをするのでした。

 そんな偶然の出会いから始まった2人、千尋は山田の素朴な優しさに惹かれ始め、山田は千尋から受ける恋するまなざしに気付いてしまいます。でも山田はノンケで、千尋も自分がゲイだと自覚したばかり。思いを伝えるだけ伝えて距離を置いてしまった千尋を、山田は優しさ故に心配していただけだと思っていたら……。

 本作は特に山田のキャラクター性が光っていると思います。見知らぬ少年を警察に突き出さずに連れて帰ったり、布団を譲って自分は凍えながら寝たり……こういうことを何の見返りを求めず自然にできてしまう。見た目はボサッとしていてぶっきらぼうそうなのに、とっても温かい心の持ち主で見習いたくなります(笑)。

©三田 織/プランタン出版

 僕が特に印象に残ったのがこのシーン。偶然拾った少年のことをこんなにも気に掛けて、素敵だなーって。実はこの時には山田も、自分の前では素を見せてくれる千尋の存在が、意識しない間に大きくなっていたのかもしれないですね。

 山田のことを熱く語ってしまいましたが、千尋も天然なようでちょっと小悪魔っぽかったり、すぐ耳たぶがバラみたいに赤くなって照れたり、いじらしいほど真っすぐなところに思わず可愛い!とキュンキュンしちゃいました(オジサンスキーなはずなのに……笑)。

 そんなこんなで、初々しさ抜群、陰から見守りたいとはこういうことか、と自分で納得するほど、応援したくなるカップルが誕生しました(笑)。お互い初めてのことにぶつかりながらも少しずつ築いていく関係、見ている方もあったかい気持ちになれる作品です。三田織さんの柔らかなタッチが、これまた作品にぴったり! 忙しない季節にこそ、本作を読んでほんわかしませんか。

 さらにおすすめしたいのが、本作のその後を描いた番外編「ばらのアーチをくぐってきてね」を続けて読むこと。いくつかの季節を巡る短編が詰まっていて、のんびりと、でも大切に育まれていく2人の愛情が見られて満足度突き抜けます。最後まで読んでタイトルを見返してみてください!