1. HOME
  2. 書評
  3. 「操作される現実」書評 誰もが嘘を拡散する時代を詳述

「操作される現実」書評 誰もが嘘を拡散する時代を詳述

評者: 坂井豊貴 / 朝⽇新聞掲載:2021年01月09日
操作される現実 VR・合成音声・ディープフェイクが生む虚構のプロパガンダ 著者:サミュエル・ウーリー 出版社:白揚社 ジャンル:社会学

ISBN: 9784826902229
発売⽇: 2020/11/06
サイズ: 20cm/397p

操作される現実 VR・合成音声・ディープフェイクが生む虚構のプロパガンダ [著]サミュエル・ウーリー

 先日の紅白歌合戦に覆面グループGReeeeNが登場した。ただし登場したのは実物ではなく、人間のような立体映像。実に精巧にできており、私は最初それを実物かと思った。技術がもう少し進歩すれば、最後まで見分けが付かないものになるだろう。
 こうした技術は、本人が喋(しゃべ)っていないことを、喋ったように見せかける映像を作ることにも使える。すでにネットには虚偽のニュースが多くある。そこに虚偽の証拠動画が加わるというわけだ。そのようになりつつあるいまの社会状況を、本書は詳述する。
 虚偽の情報を流すこと自体は、人間の歴史に古くからある。だがそれは社会の有力者しかできなかった。ところが今はインターネットで、誰もが虚偽の情報を作成し、拡散できるようになった。面白おかしい嘘を集めたニュースサイトで、広告収入を得られるようにもなった。そのようなサイトのある運営者は、ヒラリーを陥れる陰謀論を掲載したことについて、取材で「人々がこういう話を聞きたがったのです」と語る。陰謀論を好む人がいれば、そのような人を操作して利益を得る人もいるのだ。
 痛感させられるのは、いわゆるIT革命が、本当に革命的な変化を人間社会にもたらしたことだ。米国のある調査では現在、若者の45%が「ほぼ常に」インターネットを使っているのだという。そこでは様々なチャットやメディアで各人が交流して、情報を流通させている。この複雑なネットワーク上の情報の流れは、テレビや新聞による一方向的な情報の流れとはまるで異なるものだ。
 情報は、政治家や商品への評価に直結する。だから流通の変化は、政治と経済の姿を変えてゆく。だが情報はモノと違って目に見えないから、流通の変化はとらえにくい。変化の影響についても然(しか)りである。こうした難しい作業を行ううえで、本書は多くの助けを与えてくれる。
    ◇
Samuel Woolley AIや政治、ソーシャルメディアが専門の研究者、著述家。テキサス大助教などを務める。