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「日本国憲法のお誕生」書評 祝賀グッズに見る制定劇の実像

評者: 戸邉秀明 / 朝⽇新聞掲載:2021年01月23日
日本国憲法のお誕生 その受容の社会史 著者:江橋崇 出版社:有斐閣 ジャンル:憲法

ISBN: 9784641227965
発売⽇: 2020/11/06
サイズ: 19cm/218p

日本国憲法の誕生は急ごしらえの舞台上での一幕の乱舞劇であった。歴史のひだに隠されていた“もうひとつの憲法物語”を、制定記念グッズや祝賀行事、公式記録などの深読みを通してひ…

日本国憲法のお誕生 その受容の社会史 [著]江橋崇

 日本国憲法は大急ぎで作られ、賛否を問う国民投票もしていない。では肝心の国民はどう受けとめたか。著者は長年収集した当時の記念・祝賀グッズなどの物品史料から、文献では見えない側面を照らし出す。
 紙芝居、レコード、かるたの啓発用具「三点盛り」はもとより、記念の切手や切符、映画から教科書まで、カラー図版のグッズの数々は見ているだけで楽しい。だが天皇の「御下賜(ごかし)」の性格を薄めた銀杯や、国会議事堂に自由の女神像を乗せた奇妙な図像の乗車券には、占領軍の強圧と、変化を呑(の)みこめない日本側の困惑が映り込んでいる。
 ここで副題の持つ含みがわかる。物品史料は、国民に受容させようとした側の憲法受容の底の浅さをこそ物語る。「天皇を戴(いただ)く主権在民」、軍備放棄、文化国家が当初の三本柱で、基本的人権を尊重すべき政府の自覚は弱かった。そこに「官僚主導の国家体制の維持継続を滑り込ませた」制定劇の実像が浮かぶ。
 お宝開陳の合間には、条文解釈ではわからない論点が次々出てくる。憲法記念日はなぜ公布ではなく施行の日なのか。憲法附属(ふぞく)法ともいうべき重要法律の改正実態を無視して、憲法改正論議に意味があるか。皮肉のたっぷりきいた語り口で憲法講義の番外編と見せながら、読者をヒヤリとさせる。実はこれが主権者に必要な本編かもしれない。
 制定劇で国民はどこにいたか。「拍手喝采するバック・コーラス」を割り振られたと、著者は手厳しい。半官半民の憲法普及会のかるたより、「草の根のかるた」の方が新憲法の理念をはるかに良く表現した。だがその熱意も、戦前来の中央への「協賛」のまま、親戚の子の「お誕生」を祝う感覚ではなかったか。
 新憲法が主権者の家族となる本来の誕生日。それは「市民がこの憲法を自分のものにして活用するようになった」時だ。その道のりを描く続編、つまりは著者の同時代史も期待したい。
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 えばし・たかし 1942年生まれ。法政大名誉教授(憲法学)。著書に『「官」の憲法と「民」の憲法』『かるた』など。