昨年11月、井上雄彦の『リアル』第15巻が発売された。実に6年ぶりとなる待望の新刊だ。1999年から「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で不定期連載している同作は「車イスバスケ」を題材にした異色作。2001年以降、毎年1冊ずつ新刊が出ていたが、第14巻が出た2014年から4年以上休載し、2019年に再開された。1億2000万部を誇る『SLAM DUNK』には及ばないものの、累計発行部数1500万部以上という堂々のヒット作となっている。
骨肉腫で右脚を切断した戸川、バイクの事故で女性を半身不随にして高校を退学した野宮、同じく事故で脊髄損傷になった高橋。知られざる車イスバスケというスポーツとともに、3人の主人公を通して病気や事故という“理不尽な現実(リアル)”をいかに受け入れ、乗り越えていくかをじっくりと描いていく。6年ぶりの新刊刊行で久しぶりに読み返してみたが、やはり名作としか言いようがない。連載を再開してくれて本当に良かった!
最近目を引くパラスポーツ(障害者スポーツ)マンガとしては、少年マガジン公式マンガアプリ「マガジンポケット」(講談社)で連載している『ブクロキックス』(松木いっか)がある。この作品で取り上げられるのは「ブラインドサッカー」。アイマスクを着け、音が出るボールを使って行なう5人制のサッカーだ。ボールが“見える”のは敵ゴールの後ろから味方にゴールの位置を知らせる「ガイド」とゴールキーパーのみ。フィールドプレーヤーの4人は全員アイマスクを着け、視覚を完全に遮断した状態でプレーしなければならない。車イスバスケもそうだが、ブラインドサッカーを描いたマンガというのも過去に例はないだろう。
池袋の整体院で働く小山田は生まれつき全盲の青年。ひょんなことから日韓ハーフの美少女ジヘと知り合い、彼女の父親が監督を務めるブラインドサッカーチーム「ブクロホチキス」に誘われる。「玉帝(ぎょくてい)新宿」というチームが対戦相手を募集しており、自分たちに勝ったら1000万円の賞金を払うというのだ。おっとりして一見トロそうな小山田だが、少年時代には晴眼者にまじって約10年間サッカーをしていた経験があり、やがてその恐るべき実力が明らかになっていく。
なぜ目隠しをした状態でサッカーができるのか? 門外漢の読者にとっては、まずその前提自体が驚きだろう。その興味で読み始めると徐々にアイマスクの存在が気にならなくなり、純粋にスポーツマンガとして引き込まれていく。人物の描き分けにやや難はある(玉帝新宿の倉野と赤羽フェニックスの橋本とか)が、往年のしげの秀一を思わせる絵柄に独特の魅力があり、それぞれのキャラの立て方もうまい。第3巻のラストで小山田に続く2人目の全盲プレーヤーも登場。ますます目が離せなくなってきた!