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第164回芥川賞・直木賞を振り返る 島田雅彦さん、北方謙三さんが講評

芥川賞の宇佐見りんさん(右)と、直木賞の西條奈加さん=滝沢文那撮影

 選考会場がある都内に緊急事態宣言が出るなか、選考委員各9人のうち、芥川賞は5人、直木賞は3人がオンライン参加となった。

芥川賞、コロナ下の選考「意識の共振作用」

 芥川賞は2作で決選投票をした結果「歴然とした差がついて」宇佐見さんの受賞に決まった、と選考委員の島田雅彦さんが語った。

 「推し、燃ゆ」は、家庭や高校に居場所のない少女が、アイドルを応援することでかろうじて生きていく姿を描く。「言葉が非常にあざやかで、無意識から生まれる独特のぞわぞわした感じが巧みに捉えられている」。21歳の宇佐見さんは史上3番目に若い受賞者だが、「若い才能を後押ししようという雰囲気が支配的だった」と振り返った。

 決選投票の相手は、乗代雄介さん「旅する練習」だった。新型コロナの感染が広がるなか、利根川沿いを歩いて旅するサッカー少女と小説家の叔父の物語。すんなりと読める波乱のなさが、「非日常を生きていく上ではリアルなのかもしれない」と評価された。一方で、過去の文学作品からの引用が多いことに疑問が残ったという。

 コロナ下に選考する立場について、島田さんは「私自身も書き手としてナイーブに受け止めているので当然、意識の共振作用みたいなものは生じる」と明かした。その上で、決選投票には残らなかった砂川文次さん「小隊」に触れた。

 ロシア軍と自衛隊との戦闘を、地べたをはうような自衛官の目線でつづった作品。相手の出方が見えないなか、不可避で理不尽な戦闘を強いられる姿を描く。「ウイルスに限らず、コロナ禍は人災の部分も多い。そうした見えない敵とどう向き合っていくのか。メタファーとして読めないこともない」と話した。

直木賞、注目の「オルタネート」にも高評価

 直木賞は、25年ぶりに候補者6人全員が初ノミネートだった。最初の投票で4作に絞られ、議論を交わして再び投票した結果「かなり圧倒的な票数で西條さんになった」と選考委員の北方謙三さんが語った。「心淋し川」は、吹きだまりのような長屋を舞台に人情を映す時代小説。「完成度が高くて、欠点がないところが欠点だという意見も出るほど」だったという。

 かたや、「惜しかった」として名前をあげたのは加藤シゲアキさん「オルタネート」と、坂上泉さん「インビジブル」。坂上さんは満州と戦後の大阪をつなぐ警察小説で「長編の迫力を十分に感じさせる」と評価されたが、「満州との組み合わせが少し弱いかもしれない」と及ばなかった。

 アイドルグループ「NEWS」のメンバーでもある加藤さんは候補入りから大きく注目を集めていた。「オルタネート」は、高校生に利用が限定された架空のマッチングアプリを題材にした群像劇。北方さんは「個人的な感想」としつつも、「青春小説として非常によく書けていると思ったし、これを強く推す委員は他にもいた」と述べた。(山崎聡)=朝日新聞2021年1月27日掲載