2月の風物詩の一つといえば、朝早く試験会場に向かう中学受験生たち――。受験のために塾通いをしたという経験を持つ人も多いのでは? 漫画『二月の勝者―絶対合格の教室―』(高瀬志帆、小学館)は、中学受験塾の塾講師と生徒や保護者たちの姿を描きます。
春から正式に塾講師になる研修中の佐倉麻衣は、2月の雪がちらつく寒空の下、受験生の応援のために駆け付けた中学校で、黒木蔵人に出会います。実は彼こそ、合格実績トップの名門塾からその手腕を買われ、業績不振回復のために佐倉の塾にやってきたスーパー塾講師。着任早々、「全員を第一志望校に合格させる」と宣言し、生徒や講師をざわつかせます。
正式に塾講師として採用された佐倉の初仕事は、黒木の下で新6年生向けの公開模試のサポートをすることでした。会場には、サッカーボールを持ったままテストを受けに来る子や、答案用紙の空欄が目立つ子が多く、佐倉は心配になります。しかし新6年生の春にすべて解ききれていないことは悲観することではなく、学校のテストで100点の子どももいきなり受けたら20点しか取れないこともあるのだそう 。
黒木は公開模試を「新規顧客獲得の絶好のチャンス」ととらえる、やり手のビジネスマンの顔も持っています。それは、模試の結果を親に伝える時に発揮されます。例えば、サッカーボールを持ってきていた子の父親は、「今はサッカーの頑張り時」「高校受験からでいい」と塾通いに乗り気でない様子。そんな父親には、「小6で受験し、中高一貫校に入学できれば、15歳の伸び盛りに中断することなく、サッカーに打ち込める」と説き、受験に同意させます。
塾には志望校が明確な生徒もいれば、親に言われて何となく通っているという生徒もいます。そういう子は授業中にぼんやりしていて、当然結果も出ず、ついに受験をやめたいと言い出します。成績順に座席が並ぶ塾もあるというシビアな世界。子どものメンタルケアは必須です。
佐倉は下位クラスを受け持つことになりますが、自らも落ちこぼれだったため、生徒を放っておけません。ぼんやりしている生徒が見ている景色を見てみようと、窓際の一番後ろの席に座ると、その子が見ていたのは電車だと気付きます。早速黒木に相談すると、黒木は鉄道研究部がある学校を探し出します。好きなことに没頭できる学校生活を具体的に生徒に想像させ、自ら勉強するように導いたのです。
受験塾は有名校に生徒を合格させることで、認知度を高め、それが講師の給料に反映されるという一面も確かにあります。生徒を志望校に合格させることは確かに、塾講師の使命の一つです。しかし、子どもの未来につながる情報を提供し、笑顔を作ることもできる場所なのです。