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マール・コウサカさん すこやかに、持続可能にファッション業界を変える「foufou」デザイナーの仕事

文:小沼理 写真:斎藤大輔

誰もハッピーにならない「セール」に違和感

――foufouの「健康的な消費のために」というコンセプトについて教えて下さい。

 買ってくれる人、作る人、売る人、全員が納得できる洋服や仕組みづくりを目指して、このコンセプトを掲げています。

 もともと服が好きで、学生の頃はクレジットカードの限度額ぎりぎりまで使って洋服を買うような人間でした。でも、就活をする学年になった時、面接で言えるような学生時代に頑張ったことも、教養もない自分に気づいて。「高い洋服で武装していただけで、すっからかんだな」と思ってしまったことがありました。

 当時は面接に落ちまくっていたこともあって、「こんなに高い服ばかり買わせてくるブランドが悪い!」と逆恨みのような気持ちになったんです(笑)。ファッション業界の悪いところばかりが目につくようになって、一旦就活もやめることにしました。

――どんなところが問題だと感じたのでしょう?

 たとえば、セールという仕組みです。自分がお金をためて定価で買った洋服が、2週間後にセールになるとしますよね。そうすると、定価で買った僕も、安く売って利益が上がらないお店も、結果的に工賃が下がる職人さんもハッピーにならない。どうしてこんな変な仕組みなんだろう? と思いました。

 foufouではセールはせず、定価で売り切れるだけの量しか生産しません。その上で、人気だったものはなるべく再販売するようにしています。すでにデザインのパターンや商品の販売ページがあるのでコストがかからないし、セールをしないから同じ価格で再販しても、最初に買ったお客さんをがっかりさせないで済む。そしてその売り上げをもとに新作のデザインに挑戦して、人気が出たら再販して……という仕組みを作っています。

 foufouを立ち上げた時は、僕自身が「この仕組みはどうなんだろう」と感じていたことを解決したいと強く思っていたというよりは、もっと純粋に「他にやり方があるのでは」と思ってはじめました。

 その反骨精神は、就活中に感じた気持ちが元になっていると思います。他にも、百貨店にポップアップストアを出したり服屋に卸したりせずに全国で無料の試着会を開催したり、新作の発売日にライブ配信をしてお客さんと交流したり、様々な取り組みを行っています。

foufouの「grand fond blanc #03」

「温室育ちだな、自分」

――foufouを立ち上げるまでについて教えてください。就活をやめてからは、どんな風に過ごしていたのでしょう?

 無印良品で販売のアルバイトをはじめて、そのまましばらく契約社員として働いていました。ある時、職場の先輩が『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』(NHK出版)という本を勧めてくれたんです。

 要約すると「これからは一般の人が自宅で作ったものを世界中に届けられる時代が来る」と書かれていて、すごく刺激を受けました。僕も洋服を作れるようになれば、自分のブランドを立ち上げられるかもしれない。本を貸してくれた先輩の後押しもあって、文化服装学院の夜間部に入学しました。

 とはいえ、デザイナーや職人として生計を立てていけるのは一握り。24歳で入学したので、3年制の専門学校を卒業する時には27歳です。その時に何もスキルがないのは怖かったので、入学後すぐにアパレルの会社で内勤の仕事をはじめました。在学中の3年間、昼は生産管理の仕事、夜は専門学校、土日は自分の洋服作りや課題という日々でした。

――休みがなくて大変そうですが、頑張り続けるためのモチベーションは何だったのでしょうか。

 大変な状況をむしろ楽しんでいたかもしれないですね。大学生の時にふと「温室育ちだな、自分」と感じたことがありました。東京育ちで、大きな問題もなく生活を送っていることへの焦りというか、「浮き沈みのある人生じゃないとかっこよくないな」と思ったことがあったんです。

 僕が素敵に思う音楽やエンタメを作っている人たちには、大変な人生の中でもその逆境を糧にして作品を生み出している人が多くて。自分はこのまま平凡な人生を続けていたら、いつかその作品に感動できなくなるんじゃないか? という恐怖がありました。だからものすごく忙しくて追い詰められた時も、「既存のレールを外れてやったぞ!」「人生、良い感じに沈んでいってるぞ!」と捉えていたと思います。

 ただ、僕はそんなに頑張り続けていたわけではないとも思っています。

――どういうことでしょう?

 頑張り続けて過去を更新し続けるってすごく大変なことなんですよ。例えば、オリンピック選手は4年に1回の大舞台のために、何年間もハードな練習をこなし続けますよね。そんなに強靭なメンタルを誰もが持てるわけではないと思いますし、僕も同じです。そんなに毎日フルパワーで頑張れない中で何かを続けようと思ったら、たとえ頑張らない日があっても大丈夫なようにやるしかない。自分のできる範囲でコツコツ積み重ねていくんです。

「どうやったら毎月新作のデザインを発表できるんですか?」「SNSを毎日更新していてすごいですね」と言われることがありますが、実はまったく頑張っていなくて。運良く「頑張らなくてもできること」を仕事にできているだけなんです。

 インターネットを見ていると意識が高くて頑張り続けている人が多いから、そうならなければと思ってしまいがち。でも、僕のようなタイプにとってはやみくもに頑張ろうとするより、無理せず続けられる方法を探したり、そのやり方を認めたりするほうが大切なんじゃないかと思います。きっと僕のような人がいるはずなので、言い続けたいですね。

「健康的な消費」は続けていくからできる

――本の中では、コウサカさんの姿勢として「何をやるかより、何をやらないかを決めることが大事」だと書かれてました。今のお話はこの言葉とも重なるように感じます。

 ものづくりでは販売価格が決まっている状態からスタートすることが多いので、何ができるかよりも何ができないかが自然と先にきてしまうんですよ。だからこだわらないことを決めて、その上で「ここはこだわろう」と決めたものを作っていかないと、中途半端なものになるし、現場も疲弊してしまうと考えています。

 この意識はブランドを続けていくことにもつながっています。「健康的な消費」は持続可能性があってこそ。続けるためにどうしていくべきか、何よりも考えていますね。

――foufouはセールをしないことや試着会など、その取り組みがアパレル業界として革新的だと言われることが多いです。この評価についてはどう感じていますか?

兵庫・芦屋の洋館を貸し切って行われた試着会の様子

 「ありがたいな」というのがまずあった上で、「これが革新的なら、やっぱりアパレル業界はどうかしてるな」とも思います。僕はこのやり方が普通だと考えているからです。

 セールをしない、洋服を廃棄しない、作り手にちゃんと還元できて買い手も喜べる仕組みを作る。それをやらないのは慣習がそうなっているというだけです。でも、本当は業界の皆さんもそうしたいと考えているはずなんです。誰が悪いという話ではありません。多くの人が共感して、話題にしてくれるのがその証拠ではないでしょうか。

 foufouのようなやり方が一つのスタンダードになれば良いなと思っています。これからも年に一回くらいは、foufouのクリエイティブや仕組みを通してアパレルの構造に物申すようなことを発信していきたいですね。

落ちた時に挽回できる強さ

――順調に継続しているfoufouですが、活動の中で心が折れそうになったことはありますか?

 「もう終わりだ」と思うような危機的な瞬間は何度もありましたが、心が折れてしまったことは一度もありません。

 それは自分がステップを一つ一つ確実に進んできたからだと思っています。階段を1段ずつ上っていれば、ある時10段落っこちたとしても、どうやってまた上れば良いかわかるはずだからです。

 SNSでは、僕よりも若い世代で才能やセンスのある人が、すぐにフォロワーが増えてもてはやされているのを見かけることがあります。そういう人は10段目からスタートできるけど、うまくいかなくて3段下りてしまった結果、上り方がわからなくて挫折してしまうことがあります。1段ずつ上っている人には、ピンチになっても挽回できる根っこの強さがあると思いますね。

foufouの「THE DRESS #27」

――どの職業でも、活躍している人と比べて自分の歩みが遅くてもどかしく感じることはあると思います。そう考えると、焦らずに一歩一歩上っていける気がしますね。

 そうですね。今は昔のように「いくら稼いで、東京に一軒家を買えば成功」という時代ではありません。幸せのあり方が多様化しているはずなのに、成功のイメージはあまり変わっていないんです。そのせいで、苦しい思いをしている人もいるかもしれないですね。

 あと、僕が言うと説得力がないかもしれませんが、別に全員が仕事で高みを目指す必要もないのだと思います。「夢に向かって頑張りましょう」が当たり前になっていますけど、仕事でやりたいことがなくて、休みの日にゲームしたり、YouTubeを見たりしているだけでもじゅうぶん「自分の人生楽しいです」って言っていい。そういうことがもっと大切にされていいんです。

年を取っても若い人の創作に感動したい

――コウサカさんの今後の展望を教えてください。

 まずはfoufouを長く続けていくことです。僕個人としては、「こうなりたい」という理想はあまりないのですが、歳をとっても若い人のクリエイティブに感動していたいと思います。自分より年下の若いバンドや知らないお笑い芸人が出てきたら、いつも本当に心が動いているか確認しています。そのたびに「よかった、大丈夫だ!」って思いながら生きていますね。

――感動し続けるために、何か心がけていることはありますか?

 気をぬくと斜に構えてしまうので、積極的に良いところを探すようにしています今、若い人の間で流行っているものなどを見たときに理解できなかったとしても「これが今のセンスなんだな」と、まずは良いところから探しますね。