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「おのがデモンに聞け」書評 「自分の頭で考えた」体系を志向

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2021年03月13日
おのがデモンに聞け 小野塚・吉野・南原・丸山・京極の政治学 著者:都築 勉 出版社:吉田書店 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784905497912
発売⽇: 2021/01/03
サイズ: 19cm/383p

20世紀になって創設された専門分野である日本の政治学の5人の政治学者たち(小野塚喜平次、吉野作造、南原繁、丸山眞男、京極純一)の学問的業績をつぶさに検討する。【「TRC …

おのがデモンに聞け 小野塚・吉野・南原・丸山・京極の政治学 [著]都築勉

 本書は、小野塚喜平次、吉野作造、南原繁、丸山眞男、京極純一ら、東京(帝国)大学法学部で活躍した政治学者たちを論じるものである。もちろん、彼らだけが近代日本の政治学者であったわけではない。日本における政治学の形成を体系的に検討することは本書の目的ではない。
 しかも、南原自身は「政治学に先生はない」と言ったという。ソクラテスにならい、「おのがデモンに聞け」、言い換えれば、自らの内において響く神的なものの声に従うしかない、もっと言えば、自分で考えろというわけである。教師がその学生に自説や方法の継承を求めないことが、逆説的に伝統であったこの政治学の系譜において、通常の意味での師弟関係すら成り立たない。実際、取り上げられる人々の政治学は相当に異質である。
 にもかかわらず、本書を読んでいくと、そこにはある種の問題意識の継承があるようにも思える。彼らは手探りで「政治学とは何か」を考えた。精力的に欧米やアジアの学問や思想を研究しつつ、単に輸入にとどまらない、「自分の頭で考えた」独自の体系を作り出そうとした。国家と社会の臨界面(インターフェース)において、個人と共同体、私的なものと公的なものとが、相互に切り結び、葛藤する過程を追った。結果として、国家学とも社会学とも異なる政治学独自の存在意義が本書の最大のテーマとなる。
 現実政治との鋭い緊張関係も彼らに共通している。純粋に研究に沈潜するタイプと、一般の読者に語りかけたタイプとに分かれるが、学問的真理や良心の立場から国家権力の実態と向き合った点には近いものがある。彼らにクリスチャンが目立つのも偶然ではないはずだ。悲劇的な終わり方をした吉野をはじめ、言論や学問の自由が本書の通奏低音となっている。
 政治学のみならず、およそ学問を維持するために何が必要か、今こそ考えるべきだろう。
    ◇
つづき・つとむ 1952年生まれ。信州大名誉教授。著書に『丸山眞男、その人』『戦後日本の知識人』など。