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沓掛良彦さん「オルフェウス変幻」インタビュー 自分も末裔、根源を探る

沓掛良彦さん=伊ケ崎忍撮影

 竪琴を弾いて歌う、古代ギリシャの詩人オルフェウス。文学や絵画、音楽、映画などに描かれてきた「原初の詩人」だ。プラトン、ウェルギリウスやオウィディウス、ダンテ、リルケ、バレリーらがとらえた姿をたどる、2500年の旅となった。

 早大の露文科時代は、ドストエフスキーに熱中した。東大の大学院では比較文学を専攻。西脇順三郎を読んで地中海世界に憧れ、寺田透と木村彰一に師事し、フランス文学や古代ギリシャ詩へと関心が広がる。

 「散文より詩、叙事詩より叙情詩にひかれるのですが、自分では書けない」と、翻訳に向かった。最初の本は、古代の詩4500編を収めた『ギリシア詞華集』から、151編を訳した『牧神の葦笛(あしぶえ)』。37歳の時だ。詩人サッフォーの評伝、『ホメーロスの諸神讃歌』の訳も出すが、予想外に早く東洋回帰が訪れる。50代からは陶淵明や大田南畝、和泉式部、西行らを著書にまとめてきた。

 遠からぬ「お迎え」を待っていた70代に入り、かつて抄訳した『ギリシア詞華集』の全訳を依頼される。約2年で完成させ、尊敬する詩人・鷲巣繁男さんに「オルフェウスについて書いてみませんか」と言われたことを思い出した。「ヨーロッパの詩の恩恵を受けている日本の自分たちも、オルフェウスの末裔(まつえい)です。理解するには根源までさかのぼらないと」。ギリシャ、ラテン、英、独、仏、伊、西、露語などの文献を読み「完全にボケるか倒れる前に」、猛スピードで書いたのがこの本だ。

 「超大風呂敷ですが、古代から現代までオルフェウス像の変遷を追った、世界で最初の本だと思います」

 20代から「枯骨閑人(ここつかんじん)」という戯号を使っている。50代のころ、詩人の辻井喬さんに「なんで老人のふりをなさるんですか」と言われた。

 「今、ぴったりですよ」(文・石田祐樹 写真・伊ケ崎忍)=朝日新聞2021年3月20日掲載