「バンビ 森に生きる」
森に生まれたバンビがまわりの動物たちと触れ合いながら、母さんジカに生きるために大切なことを教えてもらい、時に危険な目にあいながらも大人のノロジカへと成長していく物語。あるときバンビは古老のノロジカに、野生動物の厳しい世界で生きのびていくためには、耳で音を聞き、鼻で匂いをかぎ、目で見て、自分で学んで行動することが大事だと諭されます。五感を研ぎ澄まし自然の中で遊んだ自分の子ども時代を思い出し、物語の世界に引き込まれました。
約100年前に書かれた動物物語を新訳で改めて読み、森で暮らす野生動物たちの息づかいが聞こえてくるような緊張感あふれる描写に、すっかり魅せられてしまいました。(フェーリクス・ザルテン作、酒寄進一訳、ハンス・ベルトレ画、福音館書店、税込み1980円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
「さいごのゆうれい」
人びとが「かなしみ」や「こうかい」から解き放たれた〈大幸福じだい〉。そんな時代に暮らす小5のぼくは、夏休みにおばあちゃんのうちで、最後の一人かもしれないというゆうれい、ネムと出会う。ネムを救い、世界を取り戻すための4日間の物語。
悲しみや後悔がない世界は本当に幸せ? 読みすすむごとに、自分の心の輪郭にそっと触れているような不思議な感覚におちいる。まるで「私」の存在をたしかめるみたいに、言葉をなぞっていく。人間の持つふくよかな感情を味わい尽くせる一冊。(斉藤倫作、西村ツチカ画、福音館書店、税込み1870円、小学校高学年から)【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん】
「ヴォドニークの水の館」
親しかった祖父を亡くした孤独な少年スチューイは、最近引っ越して来た同い年の少女エリーと仲良くなり、よく森の中の秘密の場所で話をするようになる。2人ともお気に入りのその場所では、時々不思議な現象が起こるのだが、ある日スチューイの目の前でエリーの姿が薄れ、ふっと消えてしまう。一方エリーの世界からはスチューイが消えていた。なぜそんなことになったのか? 分離した世界を元に戻すにはどうしたらいいのか? 謎にひかれてどんどん読めるミステリー。(まきあつこ文、降矢なな絵、BL出版、税込み1760円、小学校低学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】=朝日新聞2021年4月28日掲載