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「翻訳と文学」書評 他者と共にいるために

評者: 温又柔 / 朝⽇新聞掲載:2021年05月15日
翻訳と文学 著者:佐藤=ロスベアグ・ナナ 出版社:みすず書房 ジャンル:文学論

ISBN: 9784622089872
発売⽇: 2021/03/18
サイズ: 20cm/258p

古典現代語訳、ジャポニスムの和歌歌曲Waka−Liederから、村上春樹、世界文学、アイヌ文学者の自己構築、3・11後の方言訳啄木詩まで。池澤夏樹、坪井秀人、管啓次郎ら8…

「翻訳と文学」 [編著]佐藤=ロスベアグ・ナナ

 トランスレーション・スタディーズ。異なる言語を生きている他者を、いかに理解するのか。
 錚々(そうそう)たる作家、詩人、翻訳者、研究者らによる、それぞれの最新の「翻訳と文学」論を読むと、「文芸の本質には創作だけでなく編纂(へんさん)や翻訳も含まれる」ことが具体的に実感できる。とりわけ、「文化の翻訳または翻訳と権力の関係などを研究」する編著者によるアイヌ文学者・鳩沢佐美夫の「自己構築」をめぐる論考は必読だ。隣人のことばに、どんなことばで応答すれば、私たちは共にいられるのか。
 歴史は繰り返す。「他者」のいない世界なら、翻訳は不要だ。むろん、「他者」がいない世界など、どこにもない。ゆえに「文芸のみならず文化すべての基礎にある」翻訳は永遠なのだ。
 本書を出発点に、学際的で横断的な学問としてのトランスレーション・スタディーズが、今後、ここ東アジアで、どのように展開するのか追いかけたい。