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ドナテッラ・ディ・ピエトラントニオ「戻ってきた娘」 2人の母と向き合う少女の苦悩描く

 海外のなじみのない作家の小説を読むのは賭けのようなところがあるが、イタリアのベストセラー『戻ってきた娘』(ドナテッラ・ディ・ピエトラントニオ著、関口英子訳)は当たりだった。最後の行を読み終え、陰影のあるヨーロッパ映画を鑑賞した時のような感慨がこみあげてきた。

 1970年代のイタリア。恵まれた家庭で育った13歳の「わたし」は、理由も告げられず生みの親の元に戻される。新しい家で「わたし」は歓迎されず、経験したことのない貧困や、親が子どもたちに振るう暴力が日常化した厳しい環境で、「母親」とはどういう存在なのかと苦悩する。

 心を通わせる兄や妹、そして「わたし」の葛藤を繊細に捉え、映像が浮かぶような文章が魅力的だ。また終盤に「戻された」理由が明らかになる展開の鮮やかさにも引きつけられる。

 著者は本作品でイタリアの二大文学賞のひとつを受賞、訳者は別作品で須賀敦子翻訳賞を受賞している。現在映画化が進められている。(久田貴志子)=朝日新聞2021年5月15日掲載