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大倉 代表取締役 清瀧静男さんの本棚 名将のチームづくりに経営を学ぶ

自主性の尊重の意義とリーダーの責任を再確認

 私は小学生時代から野球漬けの生活を送り、1993年夏の全国大会に母校の主将として出場しました。それもあって今も野球やスポーツを題材にした本を手に取ることが多いです。最近では、『教えすぎない教え』が心に残っています。著者の岡田龍生さんは、プロ野球選手を数多く育てている名監督。その采配は近隣校の部員として間近に見ていましたし、母校の恩師の紹介もあってご本人とのお付き合いが長く続いています。岡田さんは本書で、自身が学生時代に経験していた「やらされる野球」を生徒に強いていたと振り返ります。そうした指導を見直してからの成功理由は明白で、勝利を目標にせず、選手の成長を第一に考えて1日1日を積み重ねているからだと思います。基本を徹底し、あとは選手の自主性を尊重する。勝敗の責任は監督が取ればいい。本書を読み、改めて岡田さんの覚悟を感じました。これは経営にも通じる覚悟だと思います。経営者は方向性を定め、必要な技術や資金を用意するのが役割で、失敗すればすべての責任を取る。私もここ数年は意識して社員の自主性を重んじるようにしていますが、社員の表情が生き生きとしてきました。中には自主的な判断にプレッシャーを感じる社員もいるようですが、失敗を責めることはしません。各部署のリーダーにも部下を責めるなと言っています。

 野球と経営は似ています。感性の異なる多様な人材が集まり、チームとして機能していく。それを身をもって知る人の言葉で初心に帰ることがあります。小久保裕紀さんの著書『開き直る権利 侍ジャパンを率いた1278日の記録』がそうでした。現役時代は誰もが知る名選手。しかし監督経験もないまま日本代表チームを束ねた小久保さん。その心の揺れ動きが伝わってきました。「もうこれ以上は何もすべきことはない」というところまでやるべきことをやる。迷いながら、最後は大胆に勝負をかける。負けた責任はすべて自分が被(かぶ)る。本書に触れて奮い立った経営者は私だけでしょうか。初めて経験する様々な困難に不器用なほど必死に立ち向かう姿勢に胸を打たれました。

 陸上競技で活躍された為末大さんの『生き抜くチカラ』も大好きな本です。元プロ野球選手で、現在は少年野球「ポニーリーグ」の理事長をされている広澤克実さんの勧めで読みました。為末さんが「生き抜くチカラ」として挙げた50項目の中で私の心を捉えたのは、「努力は夢中に勝てない」というフレーズ。もはや名言ですね。夢中になれることを見つけることが幸せ。社員の幸せが企業の成長に結びつく経営をいかに進めるか。この本を読むたびに考えています。

自分と同じ考えに共感したオードリー・タン氏の著書

 私が野球漬けの日々を終えてビジネスの世界に入った20年ほど前、お世話になっていた地元の経営者の方から勧められたのが、松下幸之助の『指導者の条件』です。当時の私には正直、あまり理解できませんでした。しかし、歴史上の指導者たちの言葉を用いて経営者としての大切な振る舞いを説いた内容に圧倒されたのを覚えています。おそらく、日本を代表する企業家の松下さんご自身も日々自戒し、進むべき道を探っておられたのでしょう。今は時折この書を手に取るようになりました。100を超える「条件」一つひとつを自分の行いにあてはめ、見直すべき点を探しています。今思えば、この本との出合いが経営者としての人生を意識する端緒だったのでは、と感じています。

 当社は今、「地方創生をやり切る会社」をスローガンに、地方で新規サービスを立ち上げています。その一つが「ローカル5G」です。すでに始動しているプロジェクトとしては、兵庫県三田市に30年前に造成したニュータウン一帯で5G環境を整備。ニュータウンにお住まいの方が最先端の在宅診療や無人走行車による買い物代行などを利用できるようにし、家の機器の操作・管理のすべてをペットロボットが担うシステムを整えました。

 当然セキュリティー対策も徹底しています。「少子高齢化が進む地方から、最先端の技術を実装すべき」というのが私の持論。私と同じ考えで大規模な地方活性化策を進めているのが、台湾デジタル担当政務委員のオードリー・タン氏です。『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』を読み、猛スピードで進歩するテクノロジーをいかに社会に実装していくかという考えに共感しました。大倉としては、日本で蓄積したノウハウをアジアにも届けたいと考えています。一度お会いして話してみたいと思いました。

 読んで心に残ったことはノートに箇条書きし、後で読み返します。何度読んでも感心・感動できる内容は、ビジネスにも生かせるというのが私の実感です。(談)

清瀧静男さんの経営論

 1962年の創業以来、戸建住宅、分譲マンション、リフォームなどの住空間の提供や、ニュータウンの開発、会員制リゾートクラブの運営などを展開する大倉。「HESTAスマートシティ構想」や「ふるさとのIoT化」を積極的に推進しています。

「ふるさとのIoT化」をニュータウンで始動

 大倉は1962年の創業以来、戸建住宅、分譲マンション、リフォームなどの住空間の提供やニュータウンの開発、会員制リゾートクラブの運営などを展開。昨年は「地方創生をやりきる」をテーマに、AIとIoTの技術を街に実装する「HESTA スマートシティ構想」を掲げた。

 「独自のスマートホームやスマートストアを開発し、事業化を始めています。『HESTA
AIスマートホーム』は、住設機器や家電などをネットにつなぎ、自在に操作できる仕組み。HESTA専用の家電や機器は不要で、現在使用している家電などをそのままネットワークにつなげることができます。居住者の健康を管理する独自の仕組みも開発。各種センサーで就寝時の呼吸数や血圧などを測定し、健康管理に貢献します。『HESTAスマートストア』は、顔認証を採用した無人店舗。事前に決済方法を登録しておけば、入店時に顔認証をすると、店舗内で手にした商品をセンサーで確認し、自動で決済できます。スマホでQRコードを読み取るなどの作業も不要です。高齢者も使いこなせることにこだわり、開発しました」と、清瀧会長。

 現在、兵庫県三田市と和歌山県橋本市にある同社開発のニュータウンでプロジェクトが進行中だ。今後、両市以外のニュータウンでもスマートシティ化を進める構想という。

 「自社で開発したニュータウンをIoTで再生するモデルケースをつくり、それを同じく地方の宅地開発を手がけてきた鉄道会社などに提案していきます。自ら地方創生の『点』をつくり、協業先とともに『面』に広げる戦略です」

独自技術でスマートシティ化を加速

 「IoTシステムで得た暮らしの情報は、あらゆる価値を生みます。例えばスマートホームで蓄積した健康情報を医療機関と共有することで、在宅診療が進化する可能性があります。特に病院への行き来が困難な高齢者のケアに効果的です。当社では高齢者でも簡単に操作できるテレビを使った在宅診療システムも開発しています」

 自社開発は、家電製品から介護食まで広範囲に及ぶ。昨年と今年は次世代型空気清浄機「HESTAエアクリーン」が、病院、企業、学校、宿泊施設、飲食店などで幅広く採用され、売り上げが急伸。新素材開発にも取り組み、例えば炭素系新素材「HESTAグラフェン」は、熱伝導性、強度、軽さ、薄さなどに優れ、道路融雪、床暖房、屋根融雪などの設備における省エネやコスト削減を実現している。

 20代半ばまで選手として野球に情熱を傾けた清瀧さん。俊足の「1番・センター」で、高校3年時は主将。培ったキャプテンシーを企業経営に発揮しているように見える。

 「特別、キャプテンシーがあるとは思いません。ただ、主将を務めた時は『部員の気持ちを乗せることがリーダーの役割』と思っていました。その考えは今も同じ。社員の自主性を尊重する。失敗を責めない。コロナ禍でも増収増益を達成できそうで、結果も出ています。社員には『会社が安定しているうちに、もっと失敗しろ』と話しています」

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