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「コロナの憲法学」書評 各国比較で問う感染対策と自由

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2021年05月29日
コロナの憲法学 著者:大林啓吾 出版社:弘文堂 ジャンル:憲法

ISBN: 9784335358715
発売⽇: 2021/03/11
サイズ: 19cm/281p

「コロナの憲法学」 [編]大林啓吾

 新型コロナウイルスは、世界の国がほぼ同時期に同じ課題に直面するという、まれな状況を作り出した。この機会をとらえた日本の16人の憲法学者らが、各国のコロナ対策を憲法学の視点で検証した。「緊急事態」という言葉の前に見過ごされがちな自由や権利に光を当てた意義は大きい。
 そもそも「緊急事態宣言」一つをとっても、国の成り立ちや統治体制の違いで多様な形があると知る。米国は緊急事態に関する法律が連邦レベルだけで500近くあり、法律ごとに宣言を出した。一方、ドイツはヒトラー政権の体験から行政機関が議会を迂回(うかい)することへの抵抗が強い。緊急事態の発出にも慎重で、コロナ対策では、政府による宣言は出されなかった。
 憲法論議がぐっと身近になるのは、日本にも通じる問いかけが並ぶ後半だ。
 例えば、「コロナ禍のデモは禁止されるべきか」。米国や英国では、大人数の集会を禁じた行政命令や、外出制限に対し訴訟がいくつも起きた。米国では「(集会の)規制が厳格に限定されていない」と判断された例も紹介されている。
 「買い物は認め、礼拝を禁止するのは、信教の自由に反するか」を争った裁判では、礼拝禁止に違憲判決が出たという。日本の休業要請や、「不要不急」はどこで線を引くのかといった議論にもつながる論点だ。
 それにしても、なぜ日本ではこうした本質的な問いが少ないのか。本書はその背景に、日本の特異なコロナ対策を挙げる。「自粛要請」は、国の「お願い」に「自由意思」で応じる。法が介在する余地が少なく、不利益があっても救済されにくい。さらに、同調圧力という別の力も働く。
 コロナはいわば憲法の「ストレステスト」かもしれない。感染症対策という大きな目的と、憲法が保証する自由や人権に、どう折り合いをつけるのか。根源的な問いを重ねることが、「憲法を鍛える」ことだと気付かされる。
    ◇
編者の千葉大教授ら研究者が、米欧やアジア各国の例を分析しつつコロナ禍で生じた憲法問題を考察した論集。