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他者を通じて経験を紐解く対話とは 「オープンダイアローグ(開かれた対話)」の実践紹介

 オープンダイアローグ(OD:開かれた対話)を実践する精神科医・森川すいめいさんによる、その思想を伝える一冊。

 ODとは、困難を抱える人が、3人以上で行う対話のことであり、主に精神疾患ケアの領域で実践されている。この本はその形式、やり方を述べたものではない点に重要な特徴がある。前半は、著者がODを実践するに至った精神史が語られ、その過程こそまさに対話そのものである。その人生の対話の必然として、ODを実践する事例が後半で紹介される。会話の小さな機微や姿勢を通じて、タイトルの通りODを「感じる」ことができる。

 重要な学びは数多くあるが、何よりも、何か組織内で新たな取り組みを始める上で、自分にとって、相手にとって、どういう必然性があるのか、それを紐解(ひもと)くことの大切さである。つまり、対話をすることの大切さだ。対話とは、他者という存在を通じて、経験を紐解くことだと言える。様々なビジネスのハウツーやツールがあふれかえる今日、つい私たちは対話を見落としてしまってはいないだろうか。この本では、森川さんの視点を通じて、それを確かに感じ取ることができるのだ。=朝日新聞2021年6月19日掲載