織田信長、羽柴秀吉、武田信玄、上杉謙信、伊達政宗……。西暦2105年、戦国オタクのマッドサイエンティストが戦国武将のDNAを使って多くのクローン人間を作り出した。15年後、不良界で勇名をはせる彼ら34人はそろって日本一の不良校である銀杏高校「特進クラス」に入学。歴史マニアの日下部みやびは授業料免除にひかれ、特進クラスの紅一点になってしまう。
「コミックDAYS」(講談社)連載中の『新・信長公記(しんちょうこうき)~ノブナガくんと私~』(甲斐谷忍)は振り切った設定で目を引く異色の学園ヤンキーマンガだ。クローンたちは全員そのままの名前なのだが、この時代は明治より前の日本史を学校で教えないので、一部の歴史マニアしか武将の名前を知らない。100年後の未来でありながら学生服やスマホは現代のままであり、一種の「異世界もの」と考えてもいいだろう。
ヤンキー高校に紛れ込んでしまった一般人の主人公――と聞くと、池上遼一のパロディーで知られる野中英次が2000年から2006年にかけて「週刊少年マガジン」(講談社)で連載し、映画化もされた『魁(さきがけ)!!クロマティ高校』を思い出す。優等生の神山高志はひょんなことからヤンキーだらけの都立クロマティ高校に入学。しかし、とても高校生には見えないフレディ、本物のゴリラ、ロボットのメカ沢など強烈すぎる生徒が次々と登場する中、神山はすっかり目立たなくなり、やがて彼が異分子だったことなど多くの読者が忘れてしまった(いや、だから面白かったとも言えるわけだが)。
それに対して『新・信長公記』のみやびは紅一点の美少女に加え、クラス唯一のオリジナルキャラでもあるため、いつまでも存在感を失わない。歴史マニアなので武将たちの性格を熟知しており、彼らの行動を予測できるという大きなアドバンテージも持っている。戦国時代にうとい読者には随所に出てくる武将のエピソードが勉強になるし、逆にみやびと同じくキャラの背景を知っている読者には歴史小説を読むような面白さがあるはずだ。登場人物はほとんど男性。洗練された絵柄で描かれる高校生武将たちはイケメンぞろいなので、BL好きの女子にも受けるかもしれない。
織田信長といえば、天才的な発想と行動力がある一方、短気で人の気持ちを思いやることができない暴君のイメージが強い。しかし本作の信長に冷たさは感じられない。圧倒的な洞察力や戦闘力を持ちながら、普段はひょうひょうとして「バカ(うつけ)に見える」変人として描かれる。当初、クラスメートたちは彼を軽んじていたが、徐々に人望を集め、やがて特進クラスの中心となっていく。これは信長の新解釈とも呼べるだろう。
その信長たちの前に立ちはだかるのが冷酷非情なモンスター、徳川家康だ。学園の次期総長をめぐる「旗印戦(はたじるしせん)」では、アクションよりも水面下の駆け引きや心理戦に主眼が置かれ、いかにも『LIAR GAME』の甲斐谷忍と思わせる。