今どき珍しい8人兄弟姉妹(双子2組を含む)の5番目の高1女子・螢(けい)を語り手とした物語。開幕早々、過密で騒々しい家庭状況と人物紹介を手際よく済ませた螢は、とある事情で親戚の家に泊まりで手伝いに行く。そこには父の義理の祖母と孫娘の翻訳家兼エッセイスト、そしてイケメンの担当編集者がいた。
この時点で主要登場人物が11人いるわけだが、さらに螢の3番目の兄と付き合っている同級生、後半に登場する変人としか言いようのない新人小説家も加わり、上を下への大騒ぎ。にもかかわらず、各人の性格や葛藤、トラウマまでがきっちりと描かれる。
家族内での役割と個の境界線、外面(そとづら)と自意識、劣等感と憧れ、好きと嫌い。厄介だけど愛(いと)おしい人間心理の襞(ひだ)を細やかに解きほぐす。年齢や性別を超えた友情と愛情の発露も尊い。なかでもイケメン編集者の屈託と螢のまっすぐさの正面衝突は見ものである。
それらを支えるのが圧倒的な会話の質と量だ。予定調和的でなく、現実の会話さながらに話が飛んだり嚙(か)み合わなかったり聞き直したり。皆まで言わぬ含みのあるセリフ回しも絶妙。約4年の時間経過に凝縮された濃密な人間関係の変転に酔いしれる。=朝日新聞2021年7月3日掲載