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「るるぶ」に「宇宙」が登場 「旅先」としての空の向こう

 有史以来、人は折に触れて夜空を見上げ、歌ったり慰められたり恋しい気持ちをかきたてられたりしてきた。この長い時間、空の向こうに吸い込まれていった人類の眼差(まなざ)しはどれほどのものだろう。そうして眺める一方だった遥(はる)か彼方(かなた)の宇宙が、「るるぶ」と頭にくっついているだけでいきなりハワイや京都と同じ「旅先」としてぐんと身近なものになるのだから、「るるぶ」の力はすごい。

 2019年にNASAはISS(国際宇宙ステーション)の商業利用を開放すると発表し、民間人を最大30日間、年に2回受け入れることにしたという。本書はいよいよ本格的に到来する宇宙旅行時代を見据え、夢想の対象ではなく「旅先」としての宇宙とその楽しみ方を紹介するガイドブックだ。

 実際に手に取ってみると、「るるぶ」特有の判型、どのページを開いてもカラー写真と文字情報ががちゃがちゃ目に迫ってくる感じがとてもなつかしい。同時にこのアナログな質感と内容のギャップに目が眩(くら)む。何しろローカル線の代わりに宇宙船が、ご当地グルメの代わりに宇宙食が、神社仏閣の代わりにISSおよび月、太陽系の惑星の案内があるのだから。

 気になるのは旅行代金で、ISSの滞在費は1日あたり約3万5千ドル(往復の宇宙船代金は別)、約6日間宇宙に滞在する月周回旅行は推定700億円からとのこと。もっとお手軽なところで、大気圏外に出て数分間の無重力を味わえる1700万円からのサブオービタル宇宙飛行プランも紹介されている。この価格設定を見ると、宇宙が一般市民の夏休みの旅先候補になるには、もう少し時間がかかりそうだ。

 ページを閉じると、一気に現実に引き戻される。宇宙で遊ぶには、お金も覚悟も体力も全然足りない……「行ける」宇宙はまだ遠い。でも「想(おも)う」宇宙ならすぐ近くにある。窓を開けベランダに出て、旅先としての空を眺めた。=朝日新聞2021年7月3日掲載

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 JTBパブリッシング・1100円=4刷、部数は非公表。4月刊。監修の林公代氏は宇宙飛行士インタビューなど宇宙・天文分野を中心に取材・執筆しているフリーライター。