現実は人の嘘で平和に成り立っている
――小説の中の出来事なのか、現実に起きていることなのか、あえて読者を混乱させるような手法で書かれた『鳩の撃退法』は、実写化不可能と言われてきました。今回台本を読んでみて、土屋さんはどんな印象を持ちましたか?
台本を初めて読んだ時は、時系列や状況がどんどん変わっていくので、「自分は今どこにいるんだろう?」と少し動揺しました。ストーリー的には不条理な世界観で、藤原(竜也)さんが主役だからというのもあるのですが、(どんどん場面転換していく)舞台の感覚と似ているなと感じました。「え? これってどういうこと?」と私自身も翻弄されながら、鳥飼さんの心情をリアルにお芝居できたかなと思っています。
――土屋さんが演じた鳥飼なほみは、藤原さん演じる作家・津田の担当編集者です。小説が本当にフィクションかどうかを確かめるべく行動するのですが、作中に出てくるコーヒーショップに潜入するなど、担当編集としての責務以上の思いもあったように感じました。
鳥飼さんって、津田さんの行き過ぎたファンだなと思うんです。現実って、割と人の嘘で平和に成り立っていることもあるけど、「本当はこうなんじゃないの?」という真実が、津田さんの書く文章から醸し出されているんですよね。そういうところが鳥飼さんの心に刺さって、津田さんの作品にハマっていったのかなと思います。自分が得たい情報に関しては、進んで行動して情報を集めていく人かなと思いましたし、そういう部分は私も共感できるところでした。
きっと、この映画を観る方の目線が「鳥飼さん」という存在になっているのかなと思います。「なんで?」と思ったら鳥飼さんが動いて調べて、それを観客の方も一緒に少しずつ謎を解いていくような感覚があるので、作品と観客の方々を、そして津田さんの書く物語と真実をくっつけるインターフェースみたいだなと感じました。
「ハテナ」に翻弄されて、楽しんで
――偽札が出てきたり、そこに一家の失踪が絡んできたりと、物語はだんだん事件性を帯びてきます。完成した作品をご覧になっていかがでしたか。
「犯人は誰なんだろう」ということ以外に、すごく大きな「ハテナ」が頭の中にあったんです。「とても面白かったけど、これは何だったんだろう?」と思うようなハテナは、気持ち悪いものではなくて、観た人たちと「これはこういうことなんじゃない?」とディスカッションしたくなるような疑問なんですよね。そこが今作の魅力かなと思いますし、そのハテナに翻弄されながらストーリーの中にどんどん入って、観客の方々にも参加しながら楽しんでほしいなと思います。
――「現実と虚構」が今作のテーマのひとつですが、土屋さんは現実と虚構、どちらが怖いと思いますか?
よく“虚構の中の真実”って言いますけど、人が考えて書くことに、ありえない物語なんてないだろうなって思うんです。なので、意外にフィクションで描かれていることの方が怖いのかなと思いますね。虚構の世界を楽しむためにも、好きな人や家族など、自分の大切なものを現実で見失わないことが軸になるのかなと思います。
――物語のキーとなるアイテムに『ピーター・パンとウエンディ』という本が出てきますが、土屋さんは普段どんな本を手にすることが多いですか?
その時によって読む本は変わります。好きな本で一番に思い浮かぶのは、舞踏家の大野一雄さんが書かれた『大野一雄 稽古の言葉』です。表現者としての大野さんの言葉は「なるほど」と思うことが多くて、真正面だけじゃなく、ちょっと体をひねって斜めから見てみたら、といったことが書かれているんですけど、それは生き方にも影響するなと思って。あとは、スポーツ選手の方がどうやってここまでやってきたのかを書かれた本や、小説だと東野圭吾さんの作品を読むことが多いです。
――土屋さんが読書から得るものはなんでしょう。
「がんばって生きよう!」と思うヒントを見つけるものかなと思います。以前、母から「これを読みなさい」と薦められたのが、岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て』という本でした。「出る杭は打たれるって言うけど、これくらいでいいんだよ」と言われて読んだのですが、自分らしくいることの大切さをこの本で気づくことが出来ました。
今回の『鳩の撃退法』からも、柔軟に生きることの大切さを知りました。何かを決められない時って、相手の意見を受け入れられなかったり、自分の中の頑固な部分が邪魔をしたりすることもあるけど、そういう部分が柔軟に生きられない原因の一つになっているのかなと思うんです。ちょっとした心の持ちようや考え方で自分の人生を変えられることがある。映画からもそんなメッセージを感じていただけたらと思います。