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BL担当書店員のイチオシ!「ディープな裏社会BL」

想い人への愛に満ちた衝撃の結末!(井上將利)

 ジメジメする梅雨からいよいよ夏本番、今年も暑い日々が続きそうですね。

 と、夏っぽいご挨拶もそこそこに、早速今回のお題「ディープな裏社会BL」からオススメの一冊をご紹介したいと思います!

 今回ご紹介するのは西田ヒガシさんの「やさしいあなた…」(茜新社)です。

 作者はリーマンやヤクザ・マフィアが登場する作品を多く描かれている方で、2016年に発売された本作ではヤクザ×ヤクザ、裏社会に生きる2人の男を描いた作品になっています。

 とあるBARで一人酒を飲んでいた春本、デートにきていた水田、2人が偶然ぶつかってしまい出会うところから物語は始まります。その場ではたわいもない会話を2、3、交わすのみでしたが、ステージのバンド演奏に飛び入り参加し、名曲「モナ・リザ」を歌う春本の姿に水田は惹かれるのでした……。しかし紳士2人の一夜の出会いはここまで、そして互いに自分の日常へと戻っていきます。それもそのはず、この2人、どちらも正体はヤクザ。

 春本は暴力団の幹部で武闘派の組員、一方の水田は医者くずれでフリーランスとして活動するヤクザ。裏の顔をもつ2人でしたがお互いの素性は知らぬまま、街中で再会を果たします。この時、デパートで春本を見つけた水田が「モナ・リザを落とされたお客様~」と、館内放送で春本に気付かせるのがなんとも味のある名作映画の一幕のような演出でお気に入りです。そしてこの再会をきっかけに2人は自分の素性を隠しながら距離を縮めていきます。一緒に映画を見に行ったり、連絡を取り合ったりと「この人たちヤクザだよね?」と思ってしまうようなピュアなデート模様のギャップが可愛いです(笑)。

©西田ヒガシ/茜新社

 特に、デートの帰り、勢い余って水田にキスされてしまう場面では、驚いた春本が走って逃げてしまい「だってびっくりするだろ」「びっくりしたし……」「びっくりしてる……」という“びっくり三段活用”が最高に可愛いです!

 けれども運命の悪戯か、2人が本業で抱える案件がきっかけで互いの組織が対立し衝突する構図になっていきます。お互い素性を隠しているため、まさかデート相手が対立組織の幹部だなんて想ってもいない2人。部下同士が小競り合いする中で、本人たちは次のデートのお誘いに夢中……という、なんともシュールな光景が繰り広げられます(笑)。

 そうして徐々に関係を深めていく2人ですが、いよいよその時が。春本が水田の所へ殴り込みに行き、笑えない修羅場を迎えるのでした……。

 読者としてはこの瞬間がいつ訪れてしまうのか、と冷や冷やしながら客観的に読み進めていくことにも面白さを感じるのではないでしょうか。またヤクザという暴力的な顔を持ちながら、想い人を前にした時の2人の紳士的な振る舞い、大人のカッコよさ、みたいな部分に是非注目して楽しんで頂ければと思います。物語後半の怒涛の展開、そしてヤクザらしい衝撃の結末を見届けて下さい!

贖罪、愛情、執着。複雑な感情が交錯するビターBL(原周平)

 裏社会……実際に目の当たりにしたらちびってしまいそうですが、BLではテッパンの設定の一つですね! 暴力で会話するような世界で生きる男たちの、男社会ならではのカッコよさはもちろん、人知れない孤独や義理人情に厚い関係性が描かれ、読み応えのある作品も多くて個人的に好みでもあります♪ 最近出会った、特にイチオシな一冊、時羽兼成さん「かいじゅう」(リブレ)について語りたいと思います!

 とある組に所属する曽母(そも)がゴミ捨て場で見つけたのは、顔に大きな火傷の痕がある男・城(じょう)。その面影に曽母は覚えがありました。実は、過去に自分たちの取り立てを苦に一家心中をした家族の生き残りの子供だったのです。施設に預けたまま消息が分からなくなっていた彼に偶然再会したことは、運命からの思し召しだと、組で面倒を見ることにしました。

 何かにつけて暴れる城は、さながら怪獣のような男。その背景には、幼少期のトラウマや、親身になってくれる人など1人もいなかった辛い過去が垣間見えます。贖罪の気持ちもある曽母は城を受け入れようと接し続け、次第に城にも変化が起こりはじめ……。

©時羽兼成/リブレ

 少しずつ心を開こうとしている城に、両親に起こったこと、城がこんな境遇で育たなければならなかった原因の真実が伝わったとき、2人の関係はどうなってしまうのか――。

 この作品を手に取ったきっかけは、パッと目に飛び込んできた表紙でした。他の作品とは一線を画すワイルドさ、そして今にも噛みつきそうな城と切なげな表情の曽母の2人がどんな話を紡ぐのだろう……と惹かれて読んでみたら、とってもビターで重厚なストーリーに感服! 良い意味で王道な展開なので、変にヒヤヒヤすることなく安心して楽しめます。絵柄もとても上手で、骨のしっかりした男性らしい体躯の描き方(手の甲に浮き出る血管まで描き込まれていてすごい!)や、丁寧に描かれた雑多な町の風景が、キャラクターと物語を引き立てます。

 受けの曽母の包容力や人間味もとても魅力的ですが、城のキャラがとても好きです。過去に縛られながらも、曽母に導かれながら人間らしさを取り戻していく様や、口下手で不器用な表現の裏に、曽母にしか見せない優しさがあるなど、これまで大変な目にあってきた分、ここから幸せになってね……!と応援したくなります。あと、噛みつくという行為って、野性的でいいですよね(笑)。一見暴力的ですが執着や愛情の表れでもあって、気持ちが通じた後では意味が違って見えて萌えました~!

 タイトルの「かいじゅう」には “怪獣”と“懐柔”のダブルミーニングがあるようでハッとしました。はじめは獣のような城を手懐けるということだと思っていましたが、最後まで読んでみて、懐柔させられたのは曽母なのかも、なんて感じたり。

 決して幸せな道のりではなかったかもしれない、だからこそ巡り合った2人の男の大人なラブストーリー、是非ご堪能ください!