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高瀬隼子さん「水たまりで息をする」インタビュー ささいなことで一線越える危うさ

 第165回芥川賞候補になった高瀬隼子(じゅんこ)さんの『水たまりで息をする』(集英社)は夫が妻に「風呂には、入らないことにした」と突然言い出す場面から始まる。かたくなに水道水を避ける夫は次第に異臭を放ち、職場や家庭の人間関係がきしみ出す。日常のささいなことから一線を踏み越えてしまう、現代社会の危うさを描いた一編だ。

 執筆のきっかけもささいなことから。「コロナ禍でリモートワークが増え、面倒でお風呂に入らない日が続いて。5日目くらいになると自分が明らかに臭い。このまま出勤したら、どうなるんだろうと。一線を越えた人を前にして、越えずに持ちこたえる人の気持ちを想像して書き上げました」

 夫の異変への風当たりはなぜか妻に押し寄せる。とりわけ義母からは理不尽とも思える言葉を投げつけられる。女性の「日常のいらだち」を積み重ねる筆運びは、すばる文学賞を受けたデビュー作『犬のかたちをしているもの』から一貫している。

 小学生のころから作家になりたくて、地元・愛媛の書店に通い詰めた。大学時代は文芸サークル。卒業後は会社に勤めながら、年に1作を書き上げ、文学賞に応募してきた。

 「自分がむかつくな、しんどいなということを、噓(うそ)なく書いていきたい。書かないと落ち着かないし、書いた方が自分に心地いいんです」(野波健祐)=朝日新聞2021年7月28日掲載