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「不倫まで壁一枚」の危うい男女を描くドラマ「うきわ」 出演の森山直太朗さん「心の穴は埋めません」

森山直太朗さん

心の機微や逡巡を軸にした原作

――まずは森山さんが原作を読んだ感想から教えてください。

 一読者としてすごく楽しく読みました。結婚という制約を超えた行為といえる不倫は、とてもドラマにしやすいテーマですし、エキゾチックだったりエロチックだったりと刺激的な展開の作品もありますよね。そんななかで、原作者の野村さんが作る世界は、人間の心の機微や逡巡みたいなものを軸としてとらえているんです。

©野村宗弘・小学館/「うきわ ―友達以上、不倫未満―」製作委員会

 パンドラの箱を開ける、越えてはいけない一線を越えてしまうというドキドキするものだけではなく、その前後にある人間的な弱さやもろさ、寂しさが前面に出ていて。原作はすごく人間的な泥臭い作品です。野村さんの作品には、超極悪人みたいな人が出てこないんですよ。みんなダメな人なんですが、そういうダメさがちゃんと愛情を持って描かれていたので、僕も一表現者として、創作する立場の人間としても共感できました。

――昨年は「心の傷を癒すということ」や連続テレビ小説「エール」(ともにNHK総合)とドラマに出演されていましたが、今回「うきわ ―友達以上、不倫未満―」の二葉一役のオファーを引き受けられたきっかけは何だったのでしょうか。

 原作と脚本の良さ、そして中山麻衣子役の門脇麦さんの存在が、このドラマのプロジェクトに参加しようと思ったきっかけです。麦さんは、ソリッドな役から妖艶な役や可愛い役までできる人。彼女の作品を観ていて、非常にストイックなものが多いイメージでしたし、芯がしっかりしているのにつかみどころがない、でもちゃんと門脇麦はそこにいる、という存在感がすごい。そんな魅力的な人と共演できる機会がこのドラマだったということです。

©野村宗弘・小学館/「うきわ ―友達以上、不倫未満―」製作委員会

 そして原作の良さはもちろん、脚本もすごく良かったんです。コミックを映像化するときは、原作が良いとなおさらドラマ化が難しいところ、ちゃんと成立しているから。昨今、わかりやすいものや心の穴を埋める刺激のある作品がエンタメのひとつの主流になっているなかで、「うきわ」は、心の穴は埋めません、という姿勢なんです。これだけ視聴者のことを信頼した作品作りはなかなか珍しいんじゃないかなと、脚本を見て、よりこの物語の一員になってみたいな、という気持ちになりました。

――役の「二葉一」という人物は、ご自身と似ている面はありますか。

 自分の考えていることをあまりうまくアウトプットできないところが、僕と似ているところですね。二葉さんは、その性格のおかげで、奥さんとの距離が離れていってしまうんですが、そんなもどかしい面には共感しています。

©野村宗弘・小学館/「うきわ ―友達以上、不倫未満―」製作委員会

歌手と役者、表現の違いは

――森山さんといえば、本業はシンガー・ソングライターですが、歌でパフォーマンスするときとドラマで役を演じるときと、「表現する」という意味において違いはありますか。

 基本、違いはないですね。シンガー・ソングライターは、自分の思いを音楽にのせて歌うわけですが、僕の場合は語り部として歌い、そこに自分の経験や情景がのってくる。ドラマで役を演じる場合も、自分なりに役に思いを投影させたり憑依させたり。アプローチにおいては、感覚的なところでいうと、あまり変わりがないんです。

 音楽は自分の感性で人を集めるという、イニシアチブはわりと僕自身にあるものです。でもドラマに関しては、監督がすべてなんですよ。例えば、今回だと風間太樹監督がどういう画を撮りたいか、テレビ東京の本間かなみプロデューサーがなぜこの作品をこの時代に、この面子でやろうとしているのか。それに対してピンポイントで、どう応えられるかという意識はありましたね。

 だから役作りという役作りなんて、そんな崇高なこと、僕にはできません。とにかく脚本を読んで、「何をこのシーンでやりたいんだろう」と、言葉の間にある間接的な思いを行間から読み取っていきました。

©野村宗弘・小学館/「うきわ ―友達以上、不倫未満―」製作委員会

――ドラマの二葉さんは、役に合わせて白髪を足しているそうですが、森山さんよりも年上のように見えます。

 確かに、もう少し上の年齢のイメージがあるかもしれませんね。でも、二葉さんは45歳で僕も45歳なので、年相応なんです。子どもの頃は、45歳のおじさんというと、45歳の先生とか、ああいう感じじゃなかったですか。とはいえ、普段から年齢のことは気にしたこともなく、いくつだからなんてナンセンスだと思っていて。でも1話を観たんですが……しっかり、おじさんでしたね(笑)。

――ドラマの感触が、どこかフランス映画のように淡々と進みながらも、実はじわじわと人々の心にさまざまな思いが作用していくような印象を受けました。

 まさに、短編映画ではないですが、むしろ言葉で語られていることや説明されていることにはそんなに意味がなくて。その裏側や行間のほうが、ドラマにとっては大事なんじゃないかと感じています。何か起こりそうで何も起きない、でも何も起きなそうでいて実は何かが起きているという感覚。ほっこりとしているんだけれども、緩やかな緊張感がずっと流れているドラマなので、その空気感を味わってもらえるといいですね。

©野村宗弘・小学館/「うきわ ―友達以上、不倫未満―」製作委員会

デビュー20周年の、その先は

――森山さんの音楽活動においては、2022年でデビュー20周年になりますが、今後はドラマ出演などを含めてどのような展開になっていくのでしょうか。

 今回のようにドラマに出演させていただいたり、音楽活動をしたり、誰かに楽曲提供をしたり、僕のなかにもいろいろな引き出しがあると思うんですけれども。自分の表現を通して、自分なりの成長や発見があった先に、誰かの役に立てるようなことがあればいいなと。それが何かの作品に関わることやプロジェクトだったら、今後も前向きに参加していきたいです。音楽に敬意を持ちながら、さまざまな表現活動に「さっきまであそこにいたのに、もうここにいる!」というような、神出鬼没な活動をやっていけたらいいなと思います。

©野村宗弘・小学館/「うきわ ―友達以上、不倫未満―」製作委員会

――今回、ドラマの原作はコミックですが、普段本は読まれますか。これまでに読んで印象深かった本も教えてくだい。

 いろいろなジャンルの本を読むことがありますが、これまでに印象深かった本は、向田邦子さんの『父の詫び状』(文藝春秋)です。向田さんはドラマの脚本家でもあり、原作者としても知られる方ですが、独特な審美眼でひとりの娘として、家族を見つめる脚本家として、この本を綴っていて。この本は、日本の戦中戦後の混乱している、いまとは違う時代に生きた父親に対する愛憎などをないまぜにした、エッセイです。

――この本のどのあたりに惹かれたのでしょう。

 向田さんが、人間として女性として、魅力があるんですよね。おおよそ向田さんが書くドラマで描かれるような物語や人物とはまた違う、「ああ、彼女もまたひとりの女の子だったんだな」という、茶目っ気のあるパーソナルな部分が垣間見えるからでしょうか。文章はもちろんすごく上手で、でも辛辣で、まっとう。向田さんと同じ女性の方が読まれたら、きっと共感できる部分がたくさんあると思います。