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相原瑛人「ニューノーマル」 胸が騒ぐ「このまま」の近未来

 いまだ収束の気配すらない新型コロナ感染症。マスク必須、3密回避、手洗い・うがい励行の“新しい生活様式”にもずいぶん慣れてきた。この状況が十何年も続いたら、社会の常識も人々の感覚も変わらざるを得ないだろう。
 そんな「もしも」の近未来を舞台にしたのが本作だ。主人公は常にマスク着用で育った高校生男女。家族以外の口元を見たことがなく、口を見られるのは裸を見られるのと同じぐらい恥ずかしい。現実の若者にも同種の感覚が芽生えているとの話も聞くが、倒錯的エロチシズム漂う思春期のドキドキ感が瑞々(みずみず)しく透明感のある筆致で描かれる。

 しかし、本作は単に新奇な設定の青春ラブコメにとどまらない。東京は感染地区として防疫壁により封鎖され、街には戦時中の特高警察のような防疫隊がにらみを利かす。一方、反マスク派による過激なデモも勃発。そんなディストピアSF的要素も含め、意外と構えの大きな物語だ。

 マスク専用洗浄機、体温や心拍数を測定するスマートウォッチを誰もが装着、学食には1人用個室が並ぶなど、日常描写の細部にもリアリティーあり。コロナ禍の現状を鑑みれば絵空事とは言い切れない近未来像に胸が騒ぐ。=朝日新聞2021年8月7日掲