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「ヒトコブラクダ層ぜっと」(上・下)書評 壮大なる荒唐無稽 覗く深遠さ

評者: 大矢博子 / 朝⽇新聞掲載:2021年09月04日
ヒトコブラクダ層ぜっと 上 著者:万城目 学 出版社:幻冬舎 ジャンル:小説

ISBN: 9784344037991
発売⽇: 2021/06/23
サイズ: 19cm/445p

ヒトコブラクダ層ぜっと 下 著者:万城目 学 出版社:幻冬舎 ジャンル:小説

ISBN: 9784344038004
発売⽇: 2021/06/23
サイズ: 19cm/490p

「ヒトコブラクダ層ぜっと」 [著]万城目学

 万城目学といえば奇想天外、荒唐無稽が持ち味。その中でも最も奇想天外な物語が誕生した。
 特殊能力を持つ三つ子の兄弟がライオンを連れた女に脅されて自衛隊に入り、イラクに派遣されシュメール文明の謎を解く――と、粗筋をまとめてみると奇想天外どころか意味不明だ。なのにいつしか物語に搦(から)めとられ、三つ子の行く末が気になってページをめくる手が止まらなくなる。
 三つ子の榎土梵天(えのきどぼんてん)・梵地(ぼんち)・梵人(ぼんど)が特殊能力を使って宝石泥棒に挑む場面から物語は始まる。目的は梵天のライフワークである化石発掘のための山を買うこと。ところが彼らの悪事の証拠を握る女が現れ、三つ子は彼女の言いなりになることを余儀なくされる。
 まず三人は自衛隊に入隊することに。すると、あれよあれよという間にPKOでイラク行きが決まってしまう。どうもすべてお膳立てされているようなのだが理由も目的もわからない。謎の女はイラクで彼らに何をさせようというのか?
 SF設定あり、アクションあり、ミリタリーあり、謎解きあり。次々と襲いかかる意外な展開、著者らしい洒脱(しゃだつ)なユーモアもたっぷり。「ぜっと」がまさかあれのことだったとは!
 奇想天外な設定の他にもうひとつ、著者のお家芸がある。舞台となった土地の歴史を謎解きに絡める手法だ。今回は古代メソポタミアで、その規模は既刊の比ではない。だが古代史と絡むことであれほど意味不明だった設定に筋が通ったから驚いた。これまたかなり荒唐無稽な筋ではあるのだが、不思議と説得力を感じるのだ。なぜならそこには人が生きる上での真理があるから。なぜ戦うのか、何を望み、なぜここにいるのかが語られるから。そんな深い問いかけがトボけた語り口の狭間(はざま)にチラリと覗(のぞ)くのだから堪(たま)らない。
 万城目作品最長にして最大スケール。笑いと興奮と驚きに満ちた壮大な世界を存分にご堪能あれ。
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まきめ・まなぶ 1976年生まれ。2006年に『鴨川ホルモー』でデビュー。代表作に『鹿男あをによし』など。