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横溝正史「人形佐七捕物帳」、全話収めて完結

横溝正史「完本 人形佐七捕物帳」10巻(春陽堂書店、4950円)

 没後40年を迎えた作家・横溝正史の人気捕物帳シリーズの全短編を収めた『完本 人形佐七捕物帳』(春陽堂書店、全10巻)の刊行が完結した。由利麟太郎や金田一耕助と並ぶ、横溝の「名探偵」の全容が明らかになった。

 人形佐七捕物帳は1938年から68年まで書き継がれ、松方弘樹さん主演のテレビドラマなど何度も映像化されている。京人形のように美しく気っ風のよい岡っ引きの佐七、やきもち焼きの妻・お粂(くめ)、手下の凸凹コンビ辰五郎(たつごろう)と豆六が江戸の市井の事件を解き明かす。『完本』では最新研究をもとに、発表順に全180話を収めた。

 加えて最終10巻には、二松学舎大学の所蔵資料から見つかった未発表草稿2作を翻刻して収録している。一つは同巻収録の「番太郎殺し」を膨らませたもの。もう一つは別の江戸もの「お役者文七捕物暦」シリーズの「狒々(ひひ)と女」の主人公を佐七にした改稿版。いずれも欠落部分が多いが、同大の山口直孝教授の解説によると、長編化を構想していたとみられる。後者は隅田川を下る怪しい船に端を発する物語。由利、金田一作品にも同じモチーフが使われており、横溝の好みがうかがえる。(野波健祐)=朝日新聞2021年9月8日掲載