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映画「君は永遠にそいつらより若い」奈緒さんインタビュー 絶対に隣にいてくれる人がいるよ

奈緒さん

ホリガイさんがいてくれたら救われる

──プロデューサーから小説を直接差し出され、オファーされたそうですね。原作のどんな点に惹かれて出演を決められたのでしょうか?

 ホリガイさんのキャラクターに惹かれました。日常には目を背けたくなるようなニュースがあふれていて、悲しみや怒りを覚えることもあるけれど、すべて自分ごととして捉えてしまったら苦しくて生きていけません。でもホリガイさんは、理不尽な目に遭って苦しんでいる他者をどうしても見過ごすことができない。まるで自分ごとのように執着して、他人の十字架を一緒に背負ってしまうようなところがあります。

──奈緒さん演じるイノギさんと一緒に過ごしている時も、少年の未解決失踪事件が気になって頭から離れない様子が描かれていましたね。

 はい。まっすぐな心根を持った、すごく強い人だと思いました。なんなら公務員として就職だって決まっているし、周りの人から見たら何の悩みもなさそうな普通の大学生だと思うんですよ。でもホリガイさんは自分のことを無力と感じていて自信がなく、自己肯定感も異様に低い。そんな彼女が他者や社会と関わっていくことでツラい目にも遭うけれど、必死にもがきながら自分のコンプレックスと向き合って成長していく。私自身、ホリガイさんが隣にいてくれたら救われる──と感じたように、自分のことを心から愛していると言えない人に勇気を与えてくれる主人公だと思いました。

──ホリガイを演じてみたい気持ちもあったんでしょうか?

 最初から「イノギさん役をお願いします」とオファーされていたこともありますが、ホリガイさんをやってみたい気持ちは不思議と芽生えなかったですね。原作もどこかイノギさん目線で読んでいて、「私どうしてホリガイさんに惹かれるのかな」ってことを小説から見つけ出したかった。はじめからイノギさんのつもりで作品に臨んでいました。

危険と隣り合わせで生きてきたイノギ

──その猪乃木楠子はどんな人ですか? 改めて、奈緒さんの言葉でお聞きしてみたいです。

 かなり危なっかしい人ですよね。他人と生きるペースが明らかに違うし、抱えている闇が透けて見えるようなところもあって。私、イノギさんが夜更かししてゲームやっているのがすごく心配で。夜型生活の方が全員そういうわけじゃないですが、やっぱり夜にものごとを考えてしまう人って危なっかしいと思うんですよ。太陽が昇っている時と沈んでいる時だったら、同じ考えごとでも全然違う結果に行き着く気がして。

──わかります。中学の時、深夜に書いたラブレターを翌朝読み返して渡せなかったことがあるので(苦笑)。

 ふふふ(苦笑)。それと一緒で、夜にフラフラ外に出てしまうイノギさんを見ていると「この人いつか焦燥感に駆られて、とんでもないことしちゃうんじゃないか」と心配で。そんな危険とずっと隣り合わせで生きてきた人なんだろうな、と思いました。忌々しい過去のせいで自分を肯定できない。すべてを「自分のせいだ」と考えてしまうところがあって。

──イノギさんはひとつも悪くないのに。

 あの経験ですら、どこか「自分が悪かった」くらい考えていないと割に合わないと思っていそうですよね。私自身は「どうしてあんなひどい目に遭ったイノギさんが消耗しなきゃいけないの?」と怒りを覚えましたが、すべて自責と受け止めなければやっていけないようなことが起きて、それが彼女を蝕んでいるのがすごくツラかったです。

底抜けに明るい人なんていない

──吉野(竜平)監督とキャラクタープロフィールを設定したそうですね。何を心がけながらイノギさんを演じていましたか?

 彼女に暗い過去があるからといって、常にそういう雰囲気をまとおうとするのはイヤだと思っていました。ホリガイさんと一緒にいて楽しい時間には、本当に心から笑っているイノギさんでいたかったんですよね。それに一年中、どの瞬間も暗い人っていない気がして。実際この作品に出てくる登場人物も、パッと見は何も悩みなんてなさそうに、どこにでもいる平凡な大学生のように見える。でも原作を読んで「何も悩みがなくて、底抜けに明るい人なんて実はいないんじゃないか」ということも改めて感じました。彼女が抱えているトラウマを全開にすることはしないでおこうと決めて、現場に入りました。

──イノギさんとホリガイは一緒にいることで互いによい影響を与え合うことのできた関係性だと思いましたが、奈緒さんご自身はどのように感じていらっしゃいますか?

 出会うべくして出会った二人で、すごく幸運だと思います。でもよくよく考えてみると、普通に生活していたら出会うことのない関係性ですよね。同じ大学でも学年と学科が違うし、普段出入りしているコミュニティーも異なる。そんな二人が自然と出会って、お互いの人生にこの先も関わり合うような濃密な時間を過ごせたのは、すごくラッキーだったんじゃないでしょうか。

 自分の手が届くコミュニティーの中だけでは新しいことが起きなかったり、人間関係が崩れることを恐れて本音を言えなかったりします。でも隣の人や初めて会った方とお話しすることで「世の中にはこんな新しい考え方があるんだ」とか「ツラいのは自分だけじゃなかったんだな」と気づいて、風穴が開く。イノギさんにとって、ホリガイさんとの出会いは「一人じゃない」と思わせてくれる貴重なものだったと思いますね。

©「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会

──そのラッキー、観客の皆さんにもお裾分けしたいですね。

 イノギさんがホリガイさんに出会えたように「希望を持つことを諦めないで」というメッセージをこの作品から感じました。イノギさんが恐れている夜でいうなら、「どうか真っ暗な闇にのまれないでね」って。「翌朝、陽が昇るまで諦めないで」「絶対にあなたの隣にいてくれる人がいるよ」ってことを広く皆さんに伝えたいですし、伝わる作品に仕上がったと感じています。

想像力を鍛えてくれる小説

──津村記久子さんの原作小説をすぐ読まれたそうですね。普段から読書に親しんでいるとお聞きしていますが、どんな本を好んで開くことが多いですか?

 ジャンル問わず読みますね。特にお医者さんとか、異職種の方が書いていらっしゃる本が好きです。最近はずっと「マインドフルネス」関連の書籍を読んでいました。一時期、翌日の撮影について考えすぎて「うまくやれるかな」「どうしよう」って不安になることが続いたんです。

 そんな時、「不安をいったん箱に詰めて、海に流すのを想像するといい」と何かでお聞きしました。実践したら少しずつ眠れるようになって。現場で話したら「奈緒ちゃん、それマインドフルネスっていうんだよ」と教えてもらい、すごく興味が湧いたので知り合いに関連本をお借りしました。

──マインドフルネスの関連本から、どんな教えを得ましたか?

 マインドフルネスはこれに尽きるのですが、「心を“いま”に向ける」ことですね。過去や未来にとらわれすぎて「心ここにあらず」の状態はよくないのだそうです。たしかに、これまで撮影現場でお昼ごはんをいただく時は「次のシーンどうなるかな」ってめちゃくちゃ考えちゃってたんですよ。でもそれをやり出すと、体はいっこうに休まらないらしく。だから最近は、何度も食べているコンビニのおにぎりでさえ、初めて口に運ぶと思って味わっています(笑)。

──自己暗示すごく大切ですよね。一方で物語の住人になることが多い俳優の奈緒さんが、フィクションとどう向き合っているか気になります。

 小説を手に取りますね! 辻村深月さんのミステリーが好きで、最近は家族についての短編がオムニバスになっている『家族シアター』を読みました。辻村さんの作品って主人公目線でストーリーが進んでいると思ったら、突然トリックみたいに別の人に目線が切り替わるんです。特に主人公とうまくいっていない相手の目線でものごとが語られ、真相が解き明かされると「これまでいろんな人の視座に立って考えてきたつもりだったけど、まだまだ主観だったな」と思わず自分の身を振り返ってしまう。その度に主人公と同化して恥ずかしくなったり悔しくなったり、感情が揺さぶられています。

──辻村さんの小説は、俳優のお仕事をする上でどんな影響がありますか?

 多面的にものごとを捉えることの大切さを、辻村さんのミステリーから学んでいます。俳優はいろんなキャラクターに扮するから、いろんな立場でものごとを考える想像力も必要です。お芝居から離れている時でも想像力も鍛えることができるから、小説をはじめとするフィクションにはすごく助けられていますね。これからも時間を見つけて、いろんな作品を読み進めたいと思っています。