「山賊のむすめローニャ」
嵐の夜、マッティス山賊の一族の娘として生まれたローニャは、両親や仲間の山賊たちにたっぷりとかわいがられて育った。1人で灰色こびとや妖(あや)し鳥などがすむ森に出かけるようになったある日、ボルカ山賊の息子ビルクと出会う。お互いに対立する山賊の子どもとして育った2人だが、「きょうだい」と呼び合いながら友情を深めていく。長く続いてきた慣習を打ち破ることはできるのか――。
三十数年前、夢中になって読んだ懐かしい物語の新訳が出て再読し、読み継がれてきたリンドグレーンの作品の持つ生命力の強さを改めて感じた。ストーリー展開の面白さはもちろんのこと、美しい自然の中でたくましく生きていく子どもたちの姿に魅せられた。(アストリッド・リンドグレーン作、イロン・ヴィークランド絵、ヘレンハルメ美穂訳、岩波書店、税込み2530円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
「ばけねこ」
かわいがっていた猫のタマがいなくなり、必死に捜す女の子。父親に「年を取った猫はねこみみやまにいって最期の時を迎える」「あそこにはなにかおそろしいことがある。いってはいかん」と言われますが、大好きなタマに会いたくてこっそり家を抜け出します。昔話を題材にしたお話が幻想的かつ表情豊かに描かれ、怖いはずなのにぐいぐい引き込まれてしまいます。背筋も凍るほど美しく恐ろしい、女の子の冒険譚(ぼうけんたん)。一気に読み終えたら、コミカルな結末に張りつめた空気がふわりと緩みます。(杉山亮作、アンマサコ絵、ポプラ社、税込み1540円、5歳から)【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん】
「くまが うえに のぼったら」
子どもたちが寝ている間のお話です。山では大きなクマが松の木に登りながら、木に絡んだ山ぶどうの実を夢中で食べています。あむあむ、もっともっと……。てっぺん近くの細い枝にぶら下がろうとしたので松はたまらず、クマを「びよーん」と跳ね上げます。空の彼方(かなた)へ飛ばされたクマは、雨雲を突き破り、星に抱きつき、上を下への大騒ぎに。東欧の古典絵本を思わせる懐かしい画風に対し、びっくり大胆な展開。こんな大騒動を想像しつつ眠ったら、楽しい夢が見られそう。(アヤ井アキコ作、ブロンズ新社、税込み1540円、4歳から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】=朝日新聞2021年9月25日掲載