ミュージアム好きの私は、博物館が発行する雑誌というだけで、つい好感を持ってしまう。しかも国立歴史民俗博物館といえば、私の中では西(大阪)の国立民族学博物館と双璧をなす東(千葉)の横綱、全国でも五本の指に入るほどの好きな博物館である。大きな期待とともに読んでみた。
リニューアルで判型を小さくしたおかげか、厚みが増し、手元に置いておきたい質感に変わったのはうれしい。学術的な雑誌には、どれも薄いイメージがあって、使い捨てっぽい感じがして好きじゃなかったのだ。誌面もほとんどがカラーで手に取りやすく、漫画やお笑い芸人による館内ルポなんかもあり、学術的に濃すぎる内容ばかりだと気軽に手に取りにくいから、こういう企画があるのも助かる。
最新号の特集は「歴史のなかの疫病」。まさしく時宜を得た企画だ。表紙に《歴史学はワクチンを開発することはできないが現在を考え直すための視座やヒントを過去から提供することができる》とあって、歴史研究を司(つかさど)る博物館としての矜持(きょうじ)が感じられた。経済合理性のもとに歴史や文化を軽視しているかのようなこのごろの政治への異議申し立てにも見えてくる。
中身を読むと、天然痘は、種痘ができるまで都会では常にどこかで患者が発生していたとあって驚いた。そんなにも普通に蔓延(まんえん)していたなんて。他にもコレラだのチフスだの、昔は今よりはるかに疾病に無防備な社会だったわけで、新型コロナでこれだけ不安になった身には生きた心地がしない。最初の種痘は牛ではなく罹患(りかん)した人の痂(かさぶた)や膿(うみ)を未感染者に吸わせたり、傷口に浸(し)み込ませたりしていたことにも驚いた。それって普通の感染と同じではないのだろうか。
なんて、詳細が気になった人に、おすすめ本がピックアップされているのがありがたい。5冊じゃなくてもっと紹介してくれてもいい気がする。
連載は「誌上博物館 歴博のイッピン」「歴史研究フロントライン」「くらしの由来記」ほか、調査の現場が見られる「フィールド紀行」、研究者がどんなテーマで何に取り組んできたか紹介している「研究のひとしずく」、「博物館のある街」など豊富で堅実。隙のない構成と感じる一方で、誌面全体に固さがある気がした。特集テーマを掲げていてもなんとなく中身がバラバラな印象。そもそも冒頭の写真が編集委員会の様子って、いったい誰得? と、辛口な感想を述べつつも、日本最大級の歴史博物館の雑誌なんて、可能性しか感じないので期待している。=朝日新聞2021年11月10日掲載