二酸化炭素について考える
フットサルに向かう車内で何気なくラジオを聞いていた時のことだ。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で警鐘が鳴らされている二酸化炭素の問題について語られていた。途中からではあったが、どうやら地球温暖化の専門家がパーソナリティーの質問に答えていた。
専門家とあって流石に詳しく問題点を語っており、私もなるほどと頷きながら聞いていたのだが、よくよく耳を傾けていると、大学の教授であるとか、ある程度の年齢の専門家といった話しぶりとはどこか違う印象を受けた。溌剌としてカジュアルな語り口と、専門的な解説とのギャップが新鮮だった。どんな人物がゲストとして呼ばれているのだろうと想像しているうちに、二酸化炭素から燃料を作り、その燃料で火星までロケットを飛ばすといったスケールの大きな話題になり、ますます興味が湧いた。
地球が暖められる仕組み
ゲストは21歳の現役東大生の化学者・村木風海さんであった。後に著書『火星に住むつもりです〜二酸化炭素が地球を救う〜』を手にとり知ったのだが、私と同郷の山梨出身で、地元を大切にしているところに親近感が湧いた。ラジオも本もカジュアルな語り口ながら、とても考えさせられる内容であった。二酸化炭素が増えると地球が温暖化するという話はもちろん知っていたが、その理屈を本書によって理解した。
冬が近づいて寒くなり、遠赤外線ストーブなどを使用している方もいるだろうが、赤外線にはモノを温める効果がある。常に宇宙から地球に降り注いでいて、その一部は海や陸に吸収されるが、多くは空に向かって跳ね返されるので、そのまま宇宙に放出されれば地球が暖められる心配はない。
しかし赤外線と二酸化炭素の相性が非常に良いために「共鳴」(電子レンジが水分子を温めるようなニュアンス)という現象が起きて、二酸化炭素につかまった赤外線は宇宙に放出されないまま、空気を暖めてしまう。そのため、空気中の二酸化炭素の量が増えるほどに気温が上昇してしまうのだ。赤外線との相性が良いのは二酸化炭素ばかりではなく、メタンはなんと二酸化炭素の28倍も温暖化を起こしやすく、シベリアの永久凍土の中に大量に眠っている。この二酸化炭素やメタンなどを総称して温室効果ガスと呼ぶ。
メタンが放出されたら
つい先日まで、英国のグラスゴーで開かれていたCOP26は各メディアが取り上げており、知っている方も多いと思う。地球にこれ以上、温室効果ガスを増やさないために、大気中の温室効果ガス濃度の安定を目的に毎年1回開かれている国際会議がCOPである(2020年のみコロナの影響で開催されていない)。1回目は1995年にドイツ・ベルリンで開催され、2015年にパリで開かれたCOP21は「世界の気温上昇を産業革命前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度程度に抑える努力をする」パリ協定を採択したことで知られている。
「これ以上気温が高くなるとドミノ倒しのように一気に気候が崩れてしまって、後戻りできなくなるポイント」があると言われている――
『火星に住むつもりです』より
そのポイントの一例として村木さんがあげていたのは、先ほどのメタンの話だ。気温上昇が産業革命前から2度上がると永久凍土の氷がほとんど溶けてしまい、地下にあるメタンが大量に大気中に放出され、二酸化炭素どころではない温暖化を引き起こしてしまう。現在の技術では空気中からメタンを取り除く技術はないということで、いったん放出されれば地球環境が潜在的に持っている資源の力によって加速度的に地球が暖まってしまう。そうなると人間の力で温暖化をコントロールすることが限りなく難しくなってしまうということだ。
温暖化の暴走が始まる
このような取り返しのつかない事態となってしまう前に、なんとか手を打たなければならないと、各国はCOPで連携を図っている。本書の中でも温室効果ガスが増えると地球温暖化が起き、ドミノを倒すように異常気象、旱魃、食糧難、熱帯での伝染病の蔓延と、我々人類がこの星で暮らす環境は過酷となる一方であると警鐘が鳴らされている。
しかし二酸化炭素と安定的に共存し、さらには戦略的に活用するいくつかのアイディアも書かれている。大気中の二酸化炭素を収集し、それらを燃料に変換させられれば、化石燃料に頼らずエネルギー問題を解決することになりうるかもしれない。村木さんの情熱や、受け身に回らない能動的な取り組みに励まされ、勇気をもらい応援したいと感じた。
フットサルで息を切らしながら、呼吸に意識を向けてみる。40代の私以上に次の世代、これから生まれてくる子供たちの世代にとって、地球温暖化は深刻な問題だ。今できることを一人ひとりがするために、改めて温暖化について知ることの重要性を感じた。