日本の現代詩壇を代表する詩人の一人、吉増剛造さんの新刊が相次いでいる。来年には、約60年に及ぶ創作活動の一つの節目となる、全詩集が刊行される見通しだ。
10月下旬、5年ぶりの最新詩集『Voix(ヴォワ)』(思潮社)が刊行された。東日本大震災以来、繰り返し宮城県石巻市などの被災地を訪れている吉増さんが、その土地にいにしえから息づく風景や名前、「言葉」を、独自の言語表現で描いた一冊だ。
詩をめぐる深甚なる問いに迫るのが、今月中旬に刊行された評論集『詩とは何か』(講談社現代新書)。日本の戦後詩の数々にはじまり、外国語詩、あるいは映像や音楽に至るまで。古今東西の芸術を自由自在に行き来し、詩が持つ力の淵源(えんげん)にあるもの、詩の「正体」について、詩作を通じて研ぎ澄ませてきた自らの考えをつづる。(山本悠理)=朝日新聞2021年11月24日掲載