1. HOME
  2. コラム
  3. こやまこいこ「もぐの夜」 一日の終わり、ヘンテコでやさしい世界に癒やされて

こやまこいこ「もぐの夜」 一日の終わり、ヘンテコでやさしい世界に癒やされて

夜を越えて、次に進んでいくために

 私は夜が時々怖いです。暗い夜とともに寂しい気持ちや不安や心配事が昼間の何倍にもなってやってきます。そんな時は家の中でたんたんと家事をして身の回りを少し整えて、小さな居場所を居心地よくする。あたたかいお茶を飲んだり、好きな本を読む。問題を解決できていなくても、次に進んでいくために今をなんとか過ごしていく。息をするのも苦しくなるような現実から逃げるように描き始めたのが『もぐの夜』です。

がんばる時と休む時

こやまこいこさんより

 ぬいぐるみの持つ力を信じている妖精もぐと元ぬいぐるみのぷうちゃんとぺろぽん。

 小さなトランクにぬいぐるみのくまを入れてお客さんの元へ送った夜。一仕事終えた時の解放感で嬉しい夜です。ネットで購入した品物がこんな不思議な人たちから購入できていたら面白いなと思いながら描いていました。不思議ではあるけれど私と同じように悩んだり考えたりして生活している人たちを描きたかった。どんな仕事をしていても結局は自分の毎日の生活を大切にしていかないとどうにもならなくなります。がんばる時と休む時を意識していこうというもぐたちなのです。えらいなぁ…。

そばにいるだけでほっとする存在

こやまこいこさんより

 もぐたちの他に何人か登場人物がいる中で、夜の鳥やっちょは描いていてほっとする存在でした。暗い気持ちも受け止めてくれるやっちょ。何か解決策を考えてくれるわけでもなく一方的によくわからない歌を歌う。暗い夜にやってきて、そばにいてくれる、そのおかしなともだちの存在で少しだけでも心が楽になるといいなと願っています。

 でも、そんなやっちょが休める場所はあるのだろうか、つくっていかないといけないのではないか。でも、そうすると、やっちょを癒した人がまた疲れ……それではみんなの心や生活を本当の意味で支えることはできない……。

 なのでいつかの未来には、人が生まれた時に小さな、優秀な、壊れない、話せるAIがつけられるのです。それはふわふわして空中に浮いていて邪魔にならない程度の大きさ。生まれた瞬間からその人のデータを保存していきます。アレルギーの有無、どうやったら泣き止むか、何が好きなのか。人が成長していく度に毎日更新されるために、もしもその人がひとりぼっちになったとしても、データにより周りの人が対応しやすい。心配事は共有してくれる。不安な時は性格を熟知しているので的確な言葉をかけてくれる。話しかけられたくない時には黙っている。予防接種の時期を教えてくれる。あの書類出した?とか聞いてくれる。心が本当に沈んだ時には自動的に国にデータが送られて仕事を休むことができ、生活に困らない額のお金が振り込まれる。絶対に裏切らない、完全に味方のAIが全員の側にいてくれたらみんな安心して暮らせるんだろうか……。

 やっちょを描きながらそんなことを妄想していましたが、どんどん違う漫画になっていったので戻ってきました。

 『もぐの夜』にはそんなAIは出てきませんが、少し不思議なかわいいお話です。ぜひ読んでみてください。