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「ヤングケアラー」書評 家族のこと 声上げにくい圧力

評者: 藤原辰史 / 朝⽇新聞掲載:2022年01月08日
ヤングケアラー 介護する子どもたち 著者:毎日新聞取材班 出版社:毎日新聞出版 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784620327150
発売⽇: 2021/11/27
サイズ: 19cm/293p

【新聞労連ジャーナリズム大賞・優秀賞(第25回)】ヤングケアラーたちの介護の実態をインタビューをもとにまとめるとともに、取材班が独自の全国集計から政府による全国調査に至る…

「ヤングケアラー」 [著]毎日新聞取材班

 ヤングケアラーとは、年相応以上の責任と負担をもって家族の介護や世話をする若者のことだ。本書はこの存在を世に知らしめ、自治体と政府を動かした新聞記者たちのルポである。
 睡眠不足で学業が疎(おろそ)かになり、放課後も友達と遊びにくい。ちゃんとお手伝いしてえらいね、とそんな若者に声をかけた人も少なくないだろう。私も無知だった人間のひとりである。
 マドカ(仮名)の事例には息を呑(の)んだ。社交的な母と2人暮らしだった彼女は、ある日母の異変に気づく。急にビンタをしたり、家事ができなくなったりして病院で「ピック病」と診断された。介護をするマドカは母から繰り返し暴力を受け、疲弊する。友達にも相談できない。そして「母を殺して自分も死のう」と思った。が、実行できなかった。高校になって母はついにマドカのことを忘れる。「生まれてきたことさえ否定された」気持ちがした。
 マドカは、大学で福祉を学んだあと、福祉施設に勤める。ヤングケアラーという言葉を新聞記事で知り、取材班にメールを書いた。「本当に、毎日、毎晩、母親を殺そうと思っていたんで」と記者に語るマドカは、2019年に神戸で介護中の祖母を殺害した若者に自分を重ねた。
 本人も日常生活の延長としてケアを考えがちで、自分の苦境が社会の問題だとは感じにくい点がこの問題の複雑なところだ。本書で度々登場する『ヤングケアラー』(中公新書)の著者澁谷智子は、関係省庁のプロジェクトチームの会合で「家族のことは家族でという圧力が強く働く社会」が背景にあると指摘したというが、その通りだと思う。
 18年の内閣府調査によると、英仏米独など7カ国の13歳から29歳の若者のうち、悩みや心配ごとを誰にも相談しない人の割合は日本が約20%で、2位の韓国と7ポイントの差をつけた。本書が取り組んだのはそんな孤立大国日本の宿痾(しゅくあ)にほかならない。
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同紙特別報道部(当時)の記者による取材班。本書の元になった連載で新聞労連ジャーナリズム大賞・優秀賞。