「おもち」
火鉢の網で焼くお餅。じりじりだんだん熱くなる。裏がほんのり焼けてきた。焦げ目がついたら裏返し。割れてぷぅーっとふくらんで、焼けた焼けた。磯辺焼きにする? それともきなこ? お餅が焼けて口にするまでの「おいしそう」な過程を木版で描いた絵本です。お餅は色や形の変化、香ばしいにおい、焼けるまでの待ち遠しさもおいしさの一部なんですね。
作者はパンの絵本をはじめ、食品パッケージや広告でも、実はおなじみの木版画家。質感や食感、おいしさの決め手をつかみ、幸せの記憶を読者と共有できる達人です。出来上がりまで手が掛かり、偶然性も含んだ版画の技法は、料理にも通じる気がします。さあ、絵本をおいしくめしあがれ。(彦坂有紀 もりといずみ作、福音館書店、税込み990円、2歳から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】
「王さまのお菓子」
ミリーは陶器でできたフェーヴと呼ばれる小さな女の子のお人形です。フランスで新年に祝い菓子として食べられる、ガレット・デ・ロワ(王さまのお菓子)の中に入れられます。切り分けられたパイの中にフェーヴが入っていると、その年その人に幸運がもたらされるのです。小さな人形の痛いくらい切ない、誰かを幸せにしたいという想(おも)いがギュッと詰まった、王さまのお菓子のように繊細で美しい絵本です。絵本の隅々まで幸せの魔法がかかっていますので、裏表紙までしっかりと味わってみてください。(石井睦美文、くらはしれい絵、世界文化社、税込み1650円、4、5歳から)【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん】
「セカイを科学せよ!」
日本とロシアがルーツのミハイルと、日本とアメリカがルーツの葉奈(はな)の中学生2人が巻き起こす学園ドラマ。ミハイルは科学部の電脳班で活動していたが、そこに爬虫(はちゅう)類や両生類も含む「蟲(むし)」が大好きだという転校生の葉奈が入部してくる。葉奈は入部早々、科学部に生物班を復活させ張り切るが、仲間からは敬遠される。ある時、飼っていたボウフラをめぐって事件が起こり、生物班は存続の危機に。他人の言うことにとらわれず、前を見て進む葉奈のファイトに魅了される。(安田夏菜著、講談社、税込み1540円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】=朝日新聞2021年12月25日掲載
