ISBN: 9784065269145
発売⽇: 2021/12/08
サイズ: 19cm/189p
「挑戦」 [著]山中伸弥、藤井聡太
科学者と棋士の二つの稀有(けう)な才能が「強くならなければ見えない景色」を目指して「挑戦」。
冒頭、山中先生はコロナのパンデミックの脅威について熱く語る。一方、藤井棋士は求道者の如(ごと)く将棋から一切ぶれず、コロナ状況を悲観しすぎない態度を取るが、先生の関心事、コロナ対策論は執拗(しつよう)に続く。藤井棋士は、京都大学iPS細胞研究所の感想を求められるとiPS細胞に驚きはするが、再び将棋の世界へ関心を移し、全身将棋士の姿勢を崩さない。
山中先生の危惧に対して藤井棋士はコロナ禍を逆手にとって、「自分の将棋をじっくり落ち着いて見つめ直すということもできた」と状況を超越する。そして詰将棋の創作について語るが、これを「趣味」と言い切る。芸術が感性の産物だとすれば趣味は正解。科学も将棋も発明発見に於(お)いては芸術と同根である。
後半は年齢とAIの話題に移る。研究者はこれからは二、三十代がピーク。棋士はAIによって年齢を超えて強くなるだろう。山中先生は、人間はAIには勝てず、AIから学ぶ段階になっていると主張。棋士はAIを活用することで自由度は上がったと藤井棋士はいう。AIが人間の能力にどう影響するのかという山中先生の問いに対して「人間の大局観がAIに勝つ」と藤井棋士は確信する。
しかしAIを駆使しても、勝てばいいという問題ではないのではないかという疑問が残る。確かに将棋は勝ち負けの世界である。だけど勝つことが人間性を高め、魂を浄化することとどう結びつくのか。異分野の人たちとの交流によって将棋が飛躍的に進化するかもしれないが、僕は自分が美術家だから言うのではないが、将棋に芸術的感性を導入することで、より将棋が知性と感性を超えて、北斎が晩年に求めた霊性と同質の高い人間的極みに達するのではないか。そこに藤井棋士の大団円を夢想したい。
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やまなか・しんや 1962年生まれ。京都大学iPS細胞研究所長▽ふじい・そうた 2002年生まれ。棋士。